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 友人が企画したカップルツアーだった。

 俺自身外資系のIT会社を起業していることもあり、日本人より外国人が多い。

 上質な面々ばかりで、問題はない。

 えみの手を引いて、バスへ乗り込み、のんびりと出発した。

「誰かと思ったら、祥じゃないか」

 一人の男が、流暢な日本語で話しかけてくる。

 よく通っているアメリカのスポーツジム仲間であり、古くからの友人のレスキーだった。

 俺と同じくらい百九十センチはある長身。

 金髪碧眼で、端正な顔立ちをしていて、体格はよく俺の腕よりも野太く倍はある。

 見かけは怖そうに見えるが、人懐っこく俺と違ってよく笑う。

 日本好きで、他の仲間もいたが彼とは何度か一緒に旅行したこともあった。

「偶然だな。オリビアは?」

「今回俺は、友人に頼まれてイヴェントの手伝いをしているんだ」

「そうか」

「へえ。毛色の違う可愛いキティちゃん連れているね。趣味変えた?」

「人ぎき悪いこと言うなよ。彼女は俺のお見合い相手、婚約者候補だよ。他とは違う」

 俺の言葉に、えみは驚いて目を見開いている。

「そろそろ落ち着くつもりなわけ? しかしこの子、若すぎない?」

 レスキーは、好奇心たっぷりな瞳でえみを見ている。

「十八歳だし、もう大学生だよ」

「大学生って……。自分で育てるつもり? それはそれで楽しそうだけど。名前は?」

「えみ。レスキー、邪魔するなよ」

 面白げに笑うレスキーの言葉に、俺は威嚇する。

「……わかったよ。男慣れしてないっぽいし、泣かすなよ」

 レスキーは、俺の機嫌を察知したのか、そう言って去って行く。

 えみは、レスキーが去って行ったあと、すぐさま窓辺へ視線を向ける。

 さっきのこと、えみはどう感じたのだろうか?

 気にはなっていたが、今は時期早々できくのはやめておいた。

「景色、綺麗だな」

 俺は、窓枠へと手を差し伸べて、後ろから抱くようにえみに近づいてみた。

「……そうですね。久しぶりにのんびりと景色眺めるのもいいかも」

「そうだね」
  
 一瞬躊躇いがあったので、何も言わないかと思ったのに。

 にっこりと、えみに余裕の笑顔を向けられてしまう。

 こっちのほうがどきりとしてしまった。

 今にも折れそうな細い肩に、優しい花のようなコロン。

 成熟しきってないが、妙に丸みを帯びた大人びたラインも見え隠れしている。

 俺の胸の鼓動は、やけに高鳴るばかり。

 初めて会った時から変わらない、おっとりとした雰囲気に柔らかな物腰。

 仕草や笑顔が可愛らしく、癒されてしまうのもある。

 俺は、もしかすると日々の現実に疲れているのかもしれない。

 華やかで気高い女性よりずっと好みかもと、俺は内心そんなことを考えていたーー。