5
父は威圧的で苦手だが、穏和な母とは仲がいい。
それゆえに俺は、母のために父とはどうにか縁を切らずにいた。
『しかし、えみ君はまだ大学生で』
「大学生だけど、それは待てばいい話では? 俺は問題ないけど?」
『そこまで気に入ったと?』
「ええ。そうです」
『近いうちにえみ君は外国の遠戚へ、今井家から養子に出される話がある。問題があったからなのだが、それは知っていたか?』
「それは初耳だが、どういうことです?」
俺は、自分の手元にない情報に目を見張る。
えみが、ギクリと震えて俺から顔をそむけたことが気になっていたが、それよりも話の続きがききたく無視した。
『しえ君が自由奔放で、以前もえみ君が謝りに行ったことがある。その時の相手がしえ君にぞっこんでね。二人の昔馴染みでもあるが、しえ君は毛嫌いしていて。えみ君が来たことで激怒し、ストーカーになってしまった』
「ストーカー?」
『そうだ。訴えたえみ君が来た時に、粗相したともきいている。しえ君の恋を応援してやってくれと、私を代わりにしてくれと縋ったのだと。本当か嘘かは定かではないが』
「……えみは、姉に何か弱みでもあるわけ? 後妻だから?」
俺は、春日教授の話に腑に落ちないが、多々気になったので確認してみた。
『あるだろうな。しえ君はえみ君の母親を毛嫌いしてた。自分の母親が別れたのは、えみ君の母親と父親の純愛のせいだと。二人は学生時代の恋人だった経緯があるから、今でも複雑な事情が入り組んでいるのだ』
俺は、春日教授の言葉にえみの複雑な家庭環境が見え同情を覚えていた。
「その姉のストーカー男はどうなったわけ?」
『それが……、今は別の女性と結婚している。しえ君の大学時代の後輩とだ』
ますますややこしくなり、俺は小さく溜息をついた。
「それなのに、えみは責任取って養子に出されるわけ?」
『父親がしえ君のえみ君への所業に気づいたのだろう。息子はいなく長女が跡取りだ。えみ君のためを思ってと考えている』
「母親はまだ健在なのだろう? えみは母親と離れ離れになるのでは?」
俺は、気になったことがあったので問うてみた。
『母親には力はない。後妻だからしえ君の気を使ってばかりいる。二人が一緒にいても、しえ君がえみ君を気に入らない以上、離れたほうがいいのかもしれない。違うか?』
「一理あるか」
『えみ君は、これから先やり直す予定だ。祥君、今井家と縁遠くなるらしいし、やはりやめたほうが』
「嫌だね。俺は、えみが気に入っている。彼女とこれからもつきあってみるつもりだ」
『祥君、ダメだ。名門である今井家は祥君が欲しがっている。せっかくの門出を』
「気に入ったと子を守れない男には、なるつもりはない。俺がえみを引き取る」
『だが』
「しつこいなあ。他にもあるわけ?」
俺は、春日教授の執拗さに怪訝そうな顔になる。
『えみ君は、今一度やり直させて欲しい。彼女の父親の意向に逆らえさせるな』
春日教授の言葉に、俺はますます違和感を覚えていた。
「他に何かあるだろう?」
『祥君、二日しか会っていない娘に熱を上げるなんてらしくないぞ。やめたまえ』
「へえ。俺から言い逃れるつもりなわけ? わかっている?」
俺は、面白げに言う。
次々と語られるえみの事情は、とても刺激的で、好戦的に生きてきた俺にとって攻略しがいもあり、到底引くつもりはなかった。
『祥君……』
「言えよ」
俺は、震える声音の春日教授に声を落として威嚇した。
父は威圧的で苦手だが、穏和な母とは仲がいい。
それゆえに俺は、母のために父とはどうにか縁を切らずにいた。
『しかし、えみ君はまだ大学生で』
「大学生だけど、それは待てばいい話では? 俺は問題ないけど?」
『そこまで気に入ったと?』
「ええ。そうです」
『近いうちにえみ君は外国の遠戚へ、今井家から養子に出される話がある。問題があったからなのだが、それは知っていたか?』
「それは初耳だが、どういうことです?」
俺は、自分の手元にない情報に目を見張る。
えみが、ギクリと震えて俺から顔をそむけたことが気になっていたが、それよりも話の続きがききたく無視した。
『しえ君が自由奔放で、以前もえみ君が謝りに行ったことがある。その時の相手がしえ君にぞっこんでね。二人の昔馴染みでもあるが、しえ君は毛嫌いしていて。えみ君が来たことで激怒し、ストーカーになってしまった』
「ストーカー?」
『そうだ。訴えたえみ君が来た時に、粗相したともきいている。しえ君の恋を応援してやってくれと、私を代わりにしてくれと縋ったのだと。本当か嘘かは定かではないが』
「……えみは、姉に何か弱みでもあるわけ? 後妻だから?」
俺は、春日教授の話に腑に落ちないが、多々気になったので確認してみた。
『あるだろうな。しえ君はえみ君の母親を毛嫌いしてた。自分の母親が別れたのは、えみ君の母親と父親の純愛のせいだと。二人は学生時代の恋人だった経緯があるから、今でも複雑な事情が入り組んでいるのだ』
俺は、春日教授の言葉にえみの複雑な家庭環境が見え同情を覚えていた。
「その姉のストーカー男はどうなったわけ?」
『それが……、今は別の女性と結婚している。しえ君の大学時代の後輩とだ』
ますますややこしくなり、俺は小さく溜息をついた。
「それなのに、えみは責任取って養子に出されるわけ?」
『父親がしえ君のえみ君への所業に気づいたのだろう。息子はいなく長女が跡取りだ。えみ君のためを思ってと考えている』
「母親はまだ健在なのだろう? えみは母親と離れ離れになるのでは?」
俺は、気になったことがあったので問うてみた。
『母親には力はない。後妻だからしえ君の気を使ってばかりいる。二人が一緒にいても、しえ君がえみ君を気に入らない以上、離れたほうがいいのかもしれない。違うか?』
「一理あるか」
『えみ君は、これから先やり直す予定だ。祥君、今井家と縁遠くなるらしいし、やはりやめたほうが』
「嫌だね。俺は、えみが気に入っている。彼女とこれからもつきあってみるつもりだ」
『祥君、ダメだ。名門である今井家は祥君が欲しがっている。せっかくの門出を』
「気に入ったと子を守れない男には、なるつもりはない。俺がえみを引き取る」
『だが』
「しつこいなあ。他にもあるわけ?」
俺は、春日教授の執拗さに怪訝そうな顔になる。
『えみ君は、今一度やり直させて欲しい。彼女の父親の意向に逆らえさせるな』
春日教授の言葉に、俺はますます違和感を覚えていた。
「他に何かあるだろう?」
『祥君、二日しか会っていない娘に熱を上げるなんてらしくないぞ。やめたまえ』
「へえ。俺から言い逃れるつもりなわけ? わかっている?」
俺は、面白げに言う。
次々と語られるえみの事情は、とても刺激的で、好戦的に生きてきた俺にとって攻略しがいもあり、到底引くつもりはなかった。
『祥君……』
「言えよ」
俺は、震える声音の春日教授に声を落として威嚇した。


