4
人影少ないホテルの裏口の近くに、貴賓客専用の出入り口がある。
俺は、仕事の癒しには人の目がつかない場所がいいと考えており、よく利用させて貰っていた。
最上階の部屋は、豪華に整えられていて室に入ったえみは目を丸くして見ている。
「えみ、まずは先にシャワーから入りなよ。夜会まで時間あるし、ゆっくりしていよう」
俺は、えみの手を引き、奥のバスルームへと誘導する。
「祥さん、私は着替えがないので、先にどうぞ」
えみは、部屋に見惚れていたが我に返り、手を振り解こうとする。
「ダメだ。俺が先に入ると、えみは逃げそう。着替えはあとでくるし、中にあるバスローブでも使って」
俺は、ぐいぐいと引っ張り、えみを連れて行く。
「私は、夜会には出られません。何も準備してないから。もしかしたらしえ姉さんが来るかもしれないし」
「えみ、俺の気持ち、気がついているはずだろう?」
俺は、小さく溜息をついて足を止めた。
「ごめんなさい!」
えみは、俺の手を強引に振り解くと、玄関へ駆け出して行く。
「えみ!」
俺は、えみのあとをすぐさま追って彼女の腕を掴んだ。
抗うえみの背後から自分の両腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「お、お願いです。帰してください!」
「そんなに俺が嫌?」
「そんなんじゃないです。私はあなたに相応しくないのです」
「えみ、それは俺が決めること」
ピンポーン、ピンポーン。
震える声音で言うえみに、俺が他に何か言いかけた時、チャイムが響いた。
無視しようとしたが、その後もチャイムは断続的に鳴り響き、俺は溜息をこぼす。
「えみ、大人しくしていて。いいね?」
俺は、えみの細腰を掴んでインターホンのある場所へ向かう。
えみは、何か言いかけたが押し黙っている。
片手に受話器を取ると、俺はえみを自分の胸板に押し込む。
『祥君、えみ君を返してくれ。彼女は私としえ君の甘言に惑わされただけだ』
春日教授だった。
最上階のフロアへ簡単に入り込めるのは、確かに彼くらいである。
「教授、何を言っても無駄です。俺はえみがいいのです」
『彼女は、やめたほうがいい。言いにくいことだが、後妻の子で立場が悪い』
「それは、調べました」
端的に言う俺の言葉に、俯いていたえみはびっくりして俺を仰ぐ。
『調べた?』
「俺自身が会社を経営しているのです。見合いの相手の今井しえ君のことがあって、家族構成から内部事情までくまなく調べさせました」
会社のこと、自分の身を守るためにも、俺は情報については徹底していた。
えみが後妻の娘で立場が悪いことくらいは、わかっている。
『さすがは、祥君だな。ならばえみでは無理なことわかるだろう?』
「無理ではないですよ。今井家の血を引いているのも確かだし」
『だが今井家の援助を得るためには』
「確かに、財閥グループの今井家の援助は大きい。でも俺はそんなものが必要ならば、父のレールから外れたりはしない」
父の七光りが嫌で、渡米して事業すら継がなかった俺は、今井家に関して興味は薄かった。
「しかし、しえ君の見合いを受けた限り、それが主だったのでは? それにえみ君は、君の好みでは」
「ふざけたことばかり言わないで欲しい。俺の好みを決めつけられては困る。見合いは両親に騙されて、レストランへ行っただけです。家族で久しぶりになんて、仕事虫の父親の話などきかなければ良かったと、思っていますよ」
俺は、見合いの経緯に腹を立てながらぼやいていた。
人影少ないホテルの裏口の近くに、貴賓客専用の出入り口がある。
俺は、仕事の癒しには人の目がつかない場所がいいと考えており、よく利用させて貰っていた。
最上階の部屋は、豪華に整えられていて室に入ったえみは目を丸くして見ている。
「えみ、まずは先にシャワーから入りなよ。夜会まで時間あるし、ゆっくりしていよう」
俺は、えみの手を引き、奥のバスルームへと誘導する。
「祥さん、私は着替えがないので、先にどうぞ」
えみは、部屋に見惚れていたが我に返り、手を振り解こうとする。
「ダメだ。俺が先に入ると、えみは逃げそう。着替えはあとでくるし、中にあるバスローブでも使って」
俺は、ぐいぐいと引っ張り、えみを連れて行く。
「私は、夜会には出られません。何も準備してないから。もしかしたらしえ姉さんが来るかもしれないし」
「えみ、俺の気持ち、気がついているはずだろう?」
俺は、小さく溜息をついて足を止めた。
「ごめんなさい!」
えみは、俺の手を強引に振り解くと、玄関へ駆け出して行く。
「えみ!」
俺は、えみのあとをすぐさま追って彼女の腕を掴んだ。
抗うえみの背後から自分の両腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「お、お願いです。帰してください!」
「そんなに俺が嫌?」
「そんなんじゃないです。私はあなたに相応しくないのです」
「えみ、それは俺が決めること」
ピンポーン、ピンポーン。
震える声音で言うえみに、俺が他に何か言いかけた時、チャイムが響いた。
無視しようとしたが、その後もチャイムは断続的に鳴り響き、俺は溜息をこぼす。
「えみ、大人しくしていて。いいね?」
俺は、えみの細腰を掴んでインターホンのある場所へ向かう。
えみは、何か言いかけたが押し黙っている。
片手に受話器を取ると、俺はえみを自分の胸板に押し込む。
『祥君、えみ君を返してくれ。彼女は私としえ君の甘言に惑わされただけだ』
春日教授だった。
最上階のフロアへ簡単に入り込めるのは、確かに彼くらいである。
「教授、何を言っても無駄です。俺はえみがいいのです」
『彼女は、やめたほうがいい。言いにくいことだが、後妻の子で立場が悪い』
「それは、調べました」
端的に言う俺の言葉に、俯いていたえみはびっくりして俺を仰ぐ。
『調べた?』
「俺自身が会社を経営しているのです。見合いの相手の今井しえ君のことがあって、家族構成から内部事情までくまなく調べさせました」
会社のこと、自分の身を守るためにも、俺は情報については徹底していた。
えみが後妻の娘で立場が悪いことくらいは、わかっている。
『さすがは、祥君だな。ならばえみでは無理なことわかるだろう?』
「無理ではないですよ。今井家の血を引いているのも確かだし」
『だが今井家の援助を得るためには』
「確かに、財閥グループの今井家の援助は大きい。でも俺はそんなものが必要ならば、父のレールから外れたりはしない」
父の七光りが嫌で、渡米して事業すら継がなかった俺は、今井家に関して興味は薄かった。
「しかし、しえ君の見合いを受けた限り、それが主だったのでは? それにえみ君は、君の好みでは」
「ふざけたことばかり言わないで欲しい。俺の好みを決めつけられては困る。見合いは両親に騙されて、レストランへ行っただけです。家族で久しぶりになんて、仕事虫の父親の話などきかなければ良かったと、思っていますよ」
俺は、見合いの経緯に腹を立てながらぼやいていた。


