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「捕まえた」

 売店で電話しているえみを見つけ、俺は背後から彼女を抱きしめた。

「祥さん!?」

 驚愕したえみは、受話器を落としそうになる。

「教授だろう? かわれよ」

 俺は、えみの手元から受話器を奪い取った。

『祥君かい? どうだ、新鮮だっただろうが、疲れたろう? えみ君は、のんびり屋さんでなあ、きっと物足りないだろうし』

「そんなことはない。彼女は夜会までずっとお借りしますよ」

 俺は、教授の言葉を遮って言ったあと、ガチャンとそのまま叩ききってしまう。

 何を考えているのか。

 いつも連れて歩く女性は、気ままなアクセサリー代わりで大人すぎて、周囲から割り切った付き合いに見えていたのは、確かだったかもしれない。

 だからといって、俺の理想の相手を決めつけないで欲しかった。

「……祥さん?」

 えみは、不安そうに俺を仰いで見ている。

「教授と、約束とか取引でもした?」

「そんなものはしていません。言われたのは、夕方まで海のイベントを楽しんでおいでって。もし祥さんが嫌そうならば、すぐにでも隣のビーチにいるモデル級の女性を手配するからって」

 えみは、俺から視線を逸らすと少し怯えた瞳で口元を震わせながら言った。

「俺といるのが嫌ならば、無理矢理来なくても良かったのに」

「わ、私は、無理矢理なんかじゃないです。でも、ごめんなさい。いくら姉さんの代わりとはいえ、祥さんが不快に思っているならば、最初から断れば良かったですね」

 思わずホロリと涙が落ち、えみは慌てて拭い取った。

「祥、仕方ないよ。事情があったみたいだし許してあげれば?」

 追いかけてきてずっときいていたのか、レスキーが口を挟んできた。

「そんなこと、わかっている。余計なこと言うな」

 俺は、不機嫌そのままにレスキーを睨みつける。

「あの、祥さん。私、凄く楽しかったですよ。しばらく海に来ていなかったので、海に触れることが出来たし。でも一番は、祥さんのそばにいられたことが、嬉しかったです」

「えみ……」

 えみの言葉に、俺は彼女へと視線を移す。

「祥さんってかっこいいから、女の子が振り返るわけで。私なんかがそばにいていいのかって思えるくらいなのに優しくエスコートしてくれるし、本当に幸せでした」

 えみは、再度俺を仰ぎ頬を赤らめながら、穏やかで優しい笑顔を広げた。

 俺は、その笑顔が好きだと感じていた。

 その瞳も、その唇もすべて。

 俺は、体勢を整えて、えみを正面に向かせる。

 じっと、えみの顔を覗き込んだ。

 自分の想いを確かめるために。

 えみは、瞳を瞬かせている。

 俺は、どうあれ目の前のえみのこと、愛おしいと感じていた。

 誰にも渡したくないとも。