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 すっかり疲れ切って海から上がってきたが、結構充実出来たかも。

 砂浜に上がる時、逃げ出そうとしたえみの態度は気に食わないけど。

「……確か、次は夜会だから、ホテルに行って少し休もうか」

 俺は、無理矢理に近いが、えみを抱き寄せつつ重い足を引きずりながら歩いていた。

「ホテル?」

「そう。部屋のほうが落ち着いてシャワーを浴びれるしね」

「でも」

「決まり。時間まだまだあるから、俺はゆっくりしたい」

 俺は、何か言いたげなゆみを遮って言った。

 ふと気づいたが、えみの態度が先ほどよりもずっとよそよそしいのは何故だろう?

「えみちゃん、電話だって!」

 不意に、レスキーが駆けて来て言うので、俺は怪訝そうに顔を歪めた。

「電話? あの、どこですか?」

「……俺にじゃなくて、えみに?」
 
 俺は、二人の会話を遮りレスキーを見据える。

「祥じゃなくて、えみちゃん。ほら、あの売店見えるだろう?」

「わかりました。ありがとうございます。では祥さん、先に」

「いいよ。俺も行くから」

 えみと一緒に行こうとしたのに、レスキーに腕を掴まれた。

「祥には、俺が用事があるの」

「……わかった。すぐ戻って来いよ」

「は、はーい」

 相変わらず危ない足取りで、えみはその場を去って行く。

 だから心配なのに。

 レスキーって、本当に邪魔だ。

「嫌な顔するなよ。祥、重要事項だ」

「重要事項?」

 レスキーの顔から、軽快で屈託のない表情が抜けている。

 俺は、ますます顔を顰める。

「そう。伝言だよ。俺、ツアーの責任者も兼ねているから、受けたことなんだけど。春日って男から」

「春日って」

「『天原えみの件だが、ごく普通の子だからきっと理想通りの子じゃないだろうし、夜はいいだろう? 他に色気のある子を寄こすことを、白石祥君に伝えて欲しい』って。それって、一体どういうことだよ?」

「……俺がききたい」

「何かの賭けなのかい? そう言えばわかるって、言ってたけど?……祥!」

 俺は、他にも何か言いかけたレスキーを遮って、駆け出していた。

 不安が胸の中で渦巻いている。

 確かに、俺が相手してきた女性とは違う。

 色気も足りないし、子供っぽいかもしれない。

 それでもえみがいると、妙に落ち着けた。

 のんびりとした穏やかな時間を、俺は夢のままにしたくはなかった。

 たとえそれがえみのにとってゲームであっても。