「ライバルというよりはパートの仲間の方が正しいかな」
「そう、ですか」

 田尻君の肩がすぼんで体が一回り小さくなってしまった。そんなにショック受けること言った……?

「ちょっと休もうか。もしよかったら」

 ベンチを指差すと、田尻君はふらふら歩き出してストンと座った。壊れたおもちゃみたいになってる。さすがにこの状態で別れられないや。

 一人分距離を開けて私も座る。足をプラプラさせたりして、田尻君が落ち着くのを待つ。

 ベンチは木の陰になっていて案外涼しい。良い場所を見つけたかも。

「あの……僕って自分のこと上手いって言ってるじゃないですか」
「え、あ、そうだね。上手だと思うよ」

 田尻君の言動はどうであれ、一年生にしては上手だ。素直に答えると、田尻君の下唇が突き出た。

「才能って言っていたのに、実は陰で教室通ってたなんてバカにされるかと思って」
「ああ、そういうことか。全然、努力してるんだからバカになんてしないよ」

 ようやく先ほどからの意図を理解した。田尻君が私を見て、ペコリと頭を下げた。

「ごめんなさい」
「わぁ、いいって。謝ることないよ」

 私が俯いている顔を覗くと、田尻君の瞳が揺れていた。

「大丈夫、誰にも言わない。田尻君はいつもの田尻君のままで平気だよ。ね?」

 こういう時どう慰めればいいのか。まだ人生十四年しか生きてないから正解が分からないよ。私が勝手に慌てていたら、田尻君が首を振って顔を上げた。涙は零れていない、よかった。

「ありがとうございます。でも、借りだとは思いませんから」
「いいよ。私も遠慮しないし」

 強いなぁ。それで、私は見栄っ張りだなぁ。今だったらきっと田尻君に負ける。

「そういえば、なんで先輩はあそこにいたんですか」
「私もどこか教室通ってみようかなと思って。まだ親にも相談してないんだけどね」
「あそこは止めてください。僕がいるんで」
「あはは、了解」

 田尻君は面白いなぁ。生意気だけど、ちゃんと努力するいい子だ。頭撫でたくなっちゃうけど、弟や妹でも可愛い動物でもないからそれは失礼だ。弟がいたらこんな感じだったりして。守りたくなる、この小生意気ちゃん。

 うん、私も見習おう。不貞腐れてばかりじゃ前には進めない。

 納得がいったらしい田尻君と別れる。いつ部活に来るか聞かれたけど、多分休み明けと答えるので精いっぱいだった。多分、て付けちゃった。

「一歩、進んでみますか」

 スマートフォンで教室をもう一度検索する。一駅先に違う店舗があると書かれていた。私の家はその駅とこっちの駅の間だから歩いていかれる。さすがに一緒のところ通ったら怒りそうだし。私はお母さんに相談するため家へ急いだ。

 何も解決はしていない。それなのに、行きとは別人なくらい足取りは軽かった。

「お母さんただいま! 音楽教室通っていい?」
「おかえり。え、なに?」

 急に言うものだからお母さんを混乱させてしまった。ごめん、私興奮し過ぎ。