「あ、来週ソロオーディションするから、希望者は練習しておいてね」
さらっと言われた一言に私の体が固まった。
課題曲の合わせが一通り終わって数日、自由曲の音取りが終わったところで小川先生がそう言った。
明日から全体の合わせが始まる。それを確認した上でオーディションが始まるらしい。
去年ってこのくらいの時期だったっけ。一年生だったからソロがどうとかいまいち別世界のことだったからよく覚えていない。
──わーわーどうしよう……! いや、どうもしないけれども!
頭の中がソロのことでいっぱいになる。
希望者だけだから、希望しなければ平和に過ごせるのは分かっているけれど、どうせなら挑戦したい。
三年生は当然希望するとして、美結はどうするだろう。田尻君も参加するのかな。
そうすると、六人程度のオーディションになるかも、てところか。
三年生中心の戦いになるだろうけど、私もただ負けるつもりはない。他の人だって同じ。あと一週間、家ではソロを中心に練習しよう。
もう少しで中間テストというところでオーディションはかなり厳しいけど、一曲練習するわけではない。ワンフレーズだから、テスト勉強には支障はないという判断をしたということか。
なら、テストもオーディションも頑張ろうじゃないの。テストは五科目平均以上取ること、そしてオーディションで受かることを目標に。
ちょっと、テストの目標低いかな。全科目七十点にしておこうかな。それなら失敗しても平均以上にはなるでしょう。多分。
「えーと、テストはまだ二週間あるから余裕ある。今週はテスト勉強を三十分短くさせて、ソロの時間を作ろう」
家に帰り、カーテンとドアをしっかり閉める。これで大声じゃなければお隣に聞こえないはず。
勉強の前の三十分を練習に当てることにしたけど、あっという間だから集中しないと。
部活で歌ってきたので発声は省略、ソロパートの楽譜を開く。彷徨う女の子の気持ちになって、静かに深呼吸をした。
「ここにいたんだねー……ううん、ちょっと違うか」
家族を探して歩き続けた先に見つけた家族の姿。本当は幻の姿。でも、女の子には本物に見えている。客目線ではなく、女の子目線で、嬉しさと寂しさを醸し出させる。
頭では理解しているつもりでも軽い歌い方になってしまう。これでは駄目。戦争で奪われたものの重みが伝わらない。
戦争は知らない。お父さんやお母さんも知らない。体験していない人にとって、戦争はおじいさんおばあさんから受け継がれてきたお話の中のものだ。いくら話を聞いても本を読んでも、越えられない壁がある。
「でも、近づくことはできる」
私は本棚から一冊の絵本を取り出した。五歳の時に買ってもらった戦争の本。
ひらがなを読めるようになって目についたものを買ってもらったんだけど、絵が怖くて二回しか読めなかった。お母さんは勉強になると思って買ったのかな。
さらっと言われた一言に私の体が固まった。
課題曲の合わせが一通り終わって数日、自由曲の音取りが終わったところで小川先生がそう言った。
明日から全体の合わせが始まる。それを確認した上でオーディションが始まるらしい。
去年ってこのくらいの時期だったっけ。一年生だったからソロがどうとかいまいち別世界のことだったからよく覚えていない。
──わーわーどうしよう……! いや、どうもしないけれども!
頭の中がソロのことでいっぱいになる。
希望者だけだから、希望しなければ平和に過ごせるのは分かっているけれど、どうせなら挑戦したい。
三年生は当然希望するとして、美結はどうするだろう。田尻君も参加するのかな。
そうすると、六人程度のオーディションになるかも、てところか。
三年生中心の戦いになるだろうけど、私もただ負けるつもりはない。他の人だって同じ。あと一週間、家ではソロを中心に練習しよう。
もう少しで中間テストというところでオーディションはかなり厳しいけど、一曲練習するわけではない。ワンフレーズだから、テスト勉強には支障はないという判断をしたということか。
なら、テストもオーディションも頑張ろうじゃないの。テストは五科目平均以上取ること、そしてオーディションで受かることを目標に。
ちょっと、テストの目標低いかな。全科目七十点にしておこうかな。それなら失敗しても平均以上にはなるでしょう。多分。
「えーと、テストはまだ二週間あるから余裕ある。今週はテスト勉強を三十分短くさせて、ソロの時間を作ろう」
家に帰り、カーテンとドアをしっかり閉める。これで大声じゃなければお隣に聞こえないはず。
勉強の前の三十分を練習に当てることにしたけど、あっという間だから集中しないと。
部活で歌ってきたので発声は省略、ソロパートの楽譜を開く。彷徨う女の子の気持ちになって、静かに深呼吸をした。
「ここにいたんだねー……ううん、ちょっと違うか」
家族を探して歩き続けた先に見つけた家族の姿。本当は幻の姿。でも、女の子には本物に見えている。客目線ではなく、女の子目線で、嬉しさと寂しさを醸し出させる。
頭では理解しているつもりでも軽い歌い方になってしまう。これでは駄目。戦争で奪われたものの重みが伝わらない。
戦争は知らない。お父さんやお母さんも知らない。体験していない人にとって、戦争はおじいさんおばあさんから受け継がれてきたお話の中のものだ。いくら話を聞いても本を読んでも、越えられない壁がある。
「でも、近づくことはできる」
私は本棚から一冊の絵本を取り出した。五歳の時に買ってもらった戦争の本。
ひらがなを読めるようになって目についたものを買ってもらったんだけど、絵が怖くて二回しか読めなかった。お母さんは勉強になると思って買ったのかな。

