好きなのに、進めない。【番外編】

俺は今、浴衣を着て暗い教室の中で、釣り竿の先についたこんにゃくの仕掛けを揺らしている。

学園祭初日の今日。
みのりと客引きの看板を持ちながら、のんびり校内の出し物を見に行くつもりが、学園祭だからみんなテンションが高く行く先々で、声をかけられたり、写真を撮られたりとうんざり。知らないやつに触られたりして気持ち悪い。人が押し寄せるので、裏方に回る事に。

脅かし役のやつと担当を代わってもらおうと思ったら、「楢崎くんカップルが2人とも裏方に回られたら困る」とか言われて、俺が脅かし役・みのりが他の女子とペアになり客引きに行く事に。

俺の待機場所は、教室入ってすぐだっから外の様子がよく聞こえる。
「名前なんて言うの?」
「俺と一緒に入ろうよ。その為にこのクラスに来たんだからさ。」
「この後一緒に回ろ?」
全てに、「そういうの困るんで…。」って丁寧断ってるのはみのり。

何で絡まれるかなぁ…てか、バシッと断れよな。みのりに声かけるってうちの学校の奴ではあり得ないから、他校生か。モテるのに無自覚だらな、あいつ。そもそも、お化け屋敷で浴衣着る意味あるのか?もっと変な浴衣着せれば良かったな。

交代の時間になり、控室に入ってみのりを待つが…全然来ない。また、絡まれてるのかと思って見に行くと案の定…

「みのり!何やってんだよ。」

「あ、ごめん!学校案内して欲しいって言われて。」

「へー。」

「なになに、彼氏?クラスメイト?イケメンじゃん。」

「そりゃ、どーも。俺のになんの用?学校案内は、生徒会が玄関で受付してるのでそちらへどーぞ。ほら、みのりはこっち来い。」

イライラして、控室のドアも鍵も閉めてやった。

「何絡まれてんだよ。化粧なんかしてるからじゃねーの?さっきもあいつになにか言われてなかった?もう、シカトしとけよ。」

「そんなに、言わなくても良くない?中々交わしきれなくて、待たせたのは悪かったけど。お昼買いに行こっか?」

浴衣のみのりが可愛すぎて抱きしめずには、いられなかった。うなじに唇を当てて、

「もうさ、今すぐ浴衣脱げよ。」

「え?ここで?急に何言ってんの!やめてよ!」

「その方が、色々良くない?」

「こんな所では、本当に無理だよ…。誰か来るかもしれないし、嫌。」

誰だよ、こんなの着せたやつ。化粧までして。真っ赤になって俯いて、もじもじしてるし。
あぁ…可愛いすぎる。これが俺の部屋だったら即…。

「あのさ…勘違いしてるとこ悪いけど。浴衣だと俺の可愛いみのりちゃんが、チャラチャラしたのに話しかけられて不愉快だからもう制服に着替えれば?って事なんだけど。」

「……。分かってたもん!司性格悪すぎ!言われなくても店番シフト終わったから着替えますよ!」

「そんなに怒らなくてもいいだろ。」

「怒ってないし!もう更衣室行ってくるから。」

「待てって。ちょっとからかっただけだろ。みのり、ナンパされ過ぎ。バシッと断わって。」

「慣れてないんだから、司みたいに冷たくなんて断れないよ。でも、ちょっと嬉しいかも。」

「何が?」

「だって、司のヤキモチ?」

「悪かったな、心の狭い男で。」

「じゃあ、司も浴衣着替えて来て?浴衣着てる司かっこいいから、あんまり見られたくない…かも…です。」

「そんな顔で、可愛いこと言うなよ。ここで、押し倒したくなるから。とりあえず今は我慢するけど、今日うち来れる?」

「あんまり遅くならなければ、行ける…かな?」

浴衣とうなじにやられた司とは対照的に、司のヤキモチが嬉しくて明日も浴衣を着ようかなと言うみのり。
明日は2人で裏方に徹する事が出来る様、実行委員に交渉しようと決めた司でした。