まだ重たい瞼をゆっくり上げ下げして、足を進める。隣をすれ違う乗用車を横目に、肩にかけたスクールバッグを握りしめる。
急勾配をどんどん昇っていくと、春の匂いがした。さっきまで隣にあった道路はもうなくて、気づくとそこは蒲公英畑だった。
見慣れた蒲公英畑に降り注ぐ春の光に目を細め、蒲公英をあまり踏まないように合間を縫って歩いていく。
蒲公英畑の丘のてっぺんで足を止め、辺りに広がる街を見渡す。視界を少しだけ遮ってくる背中まで伸ばした長い髪を左耳にかけ、その余韻で毛先に少し触れる。
左腕を上げるとともに袖を少しまくる。時計の長い針は6、短い針は8と9の間を指していた。登校時間がいつもより遅いとはいえ、そろそろ学校に向かわないとと思い、登ってきた坂を下った。
「出欠をとるぞー。青木真斗━━━━」
教室はいつもよりザワザワしていて、まるでもう今日から高校生が始まるのかと感じさせる空気だった。
先生もいつもならふざける男子グループに注意するけれど、今日だけはまあいいかという顔で、呆れながらも笑顔を見せていた。
「林田」
「はい」
自分の名前が呼ばれ、今日で先生に名前を呼ばれるのも最後かと実感する。
林田桃。3年間特に変わった出来事もなく、今日で義務教育を終える。3年というのも早いなと自分の何の変哲もない爪を、意味もなく見つめていた。
「矢澤」
「はい」
その返事に少し驚いたのは私だけじゃなかった。一瞬静まったかと思った教室はまたざわめきを取り戻した。矢澤葉。3年間一度も学校に来ることもなく今日を迎えると思っていたが、まさかの卒業式に最初で最後の顔を見ることになるとは。
「矢澤くん来たんだ」「案外かっこよくない?」「高校行くのかな」「絶対行けないって!」そんな声が女子の間では飛び交う中。
「あいつふざけやがって」「葵、落ち着けよ」「矢澤くん来たんだー♡」「お前あからさますぎるだろ笑笑」男子たちは嘲笑うように、矢澤くんに向けて言葉を飛ばしていた。
さすがにまずいと思った先生が男子たちを落ち着かせようと言葉をかけても無駄だった。
急勾配をどんどん昇っていくと、春の匂いがした。さっきまで隣にあった道路はもうなくて、気づくとそこは蒲公英畑だった。
見慣れた蒲公英畑に降り注ぐ春の光に目を細め、蒲公英をあまり踏まないように合間を縫って歩いていく。
蒲公英畑の丘のてっぺんで足を止め、辺りに広がる街を見渡す。視界を少しだけ遮ってくる背中まで伸ばした長い髪を左耳にかけ、その余韻で毛先に少し触れる。
左腕を上げるとともに袖を少しまくる。時計の長い針は6、短い針は8と9の間を指していた。登校時間がいつもより遅いとはいえ、そろそろ学校に向かわないとと思い、登ってきた坂を下った。
「出欠をとるぞー。青木真斗━━━━」
教室はいつもよりザワザワしていて、まるでもう今日から高校生が始まるのかと感じさせる空気だった。
先生もいつもならふざける男子グループに注意するけれど、今日だけはまあいいかという顔で、呆れながらも笑顔を見せていた。
「林田」
「はい」
自分の名前が呼ばれ、今日で先生に名前を呼ばれるのも最後かと実感する。
林田桃。3年間特に変わった出来事もなく、今日で義務教育を終える。3年というのも早いなと自分の何の変哲もない爪を、意味もなく見つめていた。
「矢澤」
「はい」
その返事に少し驚いたのは私だけじゃなかった。一瞬静まったかと思った教室はまたざわめきを取り戻した。矢澤葉。3年間一度も学校に来ることもなく今日を迎えると思っていたが、まさかの卒業式に最初で最後の顔を見ることになるとは。
「矢澤くん来たんだ」「案外かっこよくない?」「高校行くのかな」「絶対行けないって!」そんな声が女子の間では飛び交う中。
「あいつふざけやがって」「葵、落ち着けよ」「矢澤くん来たんだー♡」「お前あからさますぎるだろ笑笑」男子たちは嘲笑うように、矢澤くんに向けて言葉を飛ばしていた。
さすがにまずいと思った先生が男子たちを落ち着かせようと言葉をかけても無駄だった。
