半宵にしがみついて【完】




しっかりと傷ついているめんどくさいハートを必死に追い払って、鼻をつまみながら「うえ〜」と眉を顰めていると、「ひでえな」と言いながら目の前の男は呑気に自分のワイシャツをくんくんと嗅いでいる。


それから、「あーまじだ。片瀬のやつかな」とわたしの知らない誰かの名前を平気で出してくるからこれまた心臓によろしくない。


いまあなた、わたしの心臓に何本の矢を命中させたのかわかってる?




ていうか、どこの誰だよそれ。どういう関係だよ。詳しくおしえてくれよ。

…なんて、いまは直接聞く勇気なんて持ち合わせていない。


情緒が安定しないわたしに気付かず、仕舞いには「おらおら」と言いながらふざけて近寄ってくるから本当にやめてほしい。酔っ払いって心底めんどくさいんだな。知らなかった。

わたしの家は、母も父もお酒を飲まなかったから。



「…今日の星、すげえ綺麗だな」

「だよね、たくさん出てる。流れ星見えるかな」

「これだけ出てたら見えんじゃね?」


隣の声に釣られて顔を上に向けると、数分前と変わらず夜空一面に星が輝いていた。


綺麗だな〜と昔のことをぼんやり思い出しながら眺めていれば、隣の彼が座っていた体勢からそのまま背中を後ろに倒し、仰向けで寝転び出すもんだから、ぎょっとした。