半宵にしがみついて【完】




だけど、秋の匂いに混じってわたしの鼻腔を掠めるのはアルコールのにおいだけじゃない。わたしの知らない香水の香りもしてきて、胸が嫌な音をたて始める。

いつもは、お風呂上がりのシャンプーの香りか、柔軟剤の香りを漂わせてくるから安心していたけれど、今日は全然違う。はっきり言って心臓に悪い。



好きな気持ちって本当に厄介だと思っている。
そんな気持ちはなくなってしまえばいいのに、とも思っている。

だって、自分でもコントロールできないような知らない感情が次から次へと顔を出すから。逆に、そんな得体の知れない感情に自分がコントロールされるだなんて、考えただけで恐ろしい。


だけど、わたしはそれを身をもって痛感した。



昔はこの男のすぐ隣にいて、この男の全てを1番知っていたような気がするのに、今は知らないことの方が断然多い。わたしは、今この男の周りにいる女の人たちの立場も、顔も、性格もなにひとつ知らない。


だって、わたしは、わたしの過ごしてきた道のりしか歩めないから。確かめることすら、できないのだ。



「…そのまま捕まってれば、よかったじゃん」

「はあ?」


やけくその呟きは、ちょっぴり不機嫌そうな声に拾われる。


「だって、あんた超臭いよ」

「は、まじで?俺そんなに酒くせえ?」

「酒じゃなくて、香水臭いからもっと離れて。臭いの移る」

「香水?」