「…ごめん、間違えた」
「いや、俺の方こそごめんな」
「あんたは悪くないよ」
申し訳なさそうな表情に、胸がぎゅっと潰れそうになる。
なんで、あんたが謝るんだ。どうか、そんな泣きそうな顔をして謝らないで欲しい。
「…まあ、間に合ったんだし、別に良くね?」
「いやいや、12分オーバーですので間に合ってないですね。謝ってもらえます?」
「へーへー、すいませんでした」
そんな謝り方があるか。
変わり身が早い彼は、わたしたちの間にある気まずさを吹き飛ばそうとしたのか、ヘラヘラとてきとうに謝罪をするもんだから思いっきり睨みを効かせてしまった。
——だけれど、
「あー疲れた。久しぶりに走ったら足パンパン。ここ座ろうぜ」
長い付き合いのせいで、わたしの睨みなんてビクともしないから悔しい。
気にする様子もなく、先ほどまでわたしが座っていた場所に腰を下ろした彼は、纏っているスーツが汚れることなんて気にも留めずスマホを構い出した。だからわたしも、小さくため息をついてから仕方なく隣に座る。
「さっきまで、のんでたの?」
「そ、さっさと帰りたかったのに捕まったせいでなかなか帰してもらえなくてさ、終電逃したからタクって帰ってきた」
まじ最悪。と呟く彼からは、アルコールのにおいがした。


