半宵にしがみついて【完】




「…っ、」


弱々しい彼のそんな姿を見ていると、涙が静かにわたしの頬を伝う。見るに堪えないその姿に思わず手を伸ばそうとしたけれど、その手は途中で引っ込めた。



ちゃんと自分の口で伝えることができて良かった。だって、わたしがこの世界に留まっている理由は、この世界にいるときに伝えられなかった彼への気持ちを伝えるためだ。


それがやっと果たせたいま、わたしが、ここにいる必要はない。



だけど欲を言わせてもらえば、水稀と一緒に大人になりたかったな。わたしの隣で、大人になったわたしを見て欲しかった。大人であるいまの水稀と恋愛がしたかった。


でもそれが出来ないのなら、わたしができることは、水稀の幸せを1番に願うことだけだ。


どうか、水稀のこれからが明るいものでありますように。



触れ合うことのできない彼のことをこころのなかで精一杯に抱き締めて、ゆっくりと眼を閉じる。



最後にみつめた時計の針は、2時ぴったりを指していた。




半宵にしがみついて(完)