「…、」
「…澄依…?」
途端に、我慢していたものがわたしの瞳からぽろっと1粒零れ落ちた。…かと思えば次々に溢れ出すから、どうやって止めたらいいのか自分でもわからなくて混乱してしまう。
「…もうすぐ、2時になるね」
涙でぐしゃぐしゃになってしまった目もとを擦りながら時計に視線を移すと、2時まで残り5分だった。
あと5分でわたしは、彼の前から綺麗に消えるんだ。そう決めていたから。それなのに、
「今日はずっと、澄依のそばに居る。離れない」
彼の揺らぎない瞳がわたしをじっと捉えて離さないから、軽率にこころが傾いてしまいそうになる。お願いだから、やめてほしい。
最後くらい、わたしのわがままを素直に聞いて欲しい。
「、だめだよ。だって、あんた超臭いもん」
「…ふざけんのもいい加減にしろよ」
「ふざけてないよ。さっきから何度も言ってることじゃん」
鼻をすすりながら、頬を緩める。
泣いているのか、笑っているのか自分でもよくわからないめちゃくちゃな状態。
わたしはこんな状態だけれど、彼には少しでも笑っていて欲しい。この世界を去ってしまうまえに最後に瞳に焼きつけるものは、きらきらとしている明るいものがいい…どうせなら。


