半宵にしがみついて【完】




「…ふーん、なんかあんたのくせに生意気だね」

「…なんだよ、生意気って」

「ていうか、あんたいつまで泣いてんの?泣き顔超ブスだよ?たぶん、あんたが思ってるよりも5億倍ブスだけど、大丈夫?」

「……ほんとに、お前はひどい女だな」



容赦ないくらいに罵ると、さきほどまで泣いていたのがウソのように鋭い目つきでこちらを睨み始めた。お〜こわいこわい。




「あ、あと、浮気とか不倫とか道理に反することしたらわたしが許さないからね。天国から呪うんだからね。あんたが墓に入るまで…いや、入ったあとも喜んで呪わせてもらう」

「なんそれ、怖すぎだろ」

「じゃあ、絶対にしないでね」

「しねえよ」

「ほんとに?」

「ほんとに」

「じゃあ、指切りしよう…あ、エアー指切りでよろしく」



そう言ってわたしが同意も求めずに、にこりと小指を出せば、仕方なさそうに彼もゆっくりと小指を差し出した。


「よし。指切りげんまん、嘘ついたら、一生のーろう(呪う)、指切った!」

「……お前まじでこわいな」

「それほどでも〜」

「褒めてねえから」



そう言って笑った彼の顔はすごく楽しそうだった。すごく、自然だった。


ぎこちない気を遣ったような笑顔でもなく、なにかに囚われているような表情でもない。不意打ちで、ひだまりのような、わたしが大好きだったあの頃の笑顔を見せてくれた。