そして数年経ったいま、わたしの家族はたぶんもう、吹っ切れている。
わたしがいない生活に慣れてきて、前だけを向いている。その証拠に、わたしの部屋は片付けられてしまっていた。だからわたしは恐ろしくて、傷つきたくなくて、あの家には近寄れない。
わたしのいない生活が当たり前になっているところなんて、到底目の当たりにはできない。
わたしの居場所は、幼なじみである大切な彼との思い出のこの場所にしかないのだ。
「ていうか、ちらっと見たけど相手の人超〜美人なひとじゃん?あんたやるときは、やるんだね」
「…」
クスッと揶揄いながら言うわたしとは正反対に、彼は涙をひっきりなしに流しているのがわかる。
あんた、いつから、そんなに泣き虫になっちゃったの?もう、20歳超えた立派な大人でしょ?
泣いてちゃだめだよ。
そう思うけれど、その原因は全て、わたしにある。
「そのひとは、いいひとなの?」
あんたのこと、ちゃんと大切にしてくれるひと?
ずっと、そばにいてくれるひと?
わたしが小さく問いかければ、涙混じりに「…俺には勿体ないくらい、いいひとだよ」と言った彼の声が聞こえた。
そっか、なら、よかった。ほんとうに、よかった。
「…っ、」
安心した途端に溢れてしまいそうなものを、歯を食いしばって、必死で我慢する。


