嘘でいいから、 抱きしめて




「─もう、1ヶ月」

病院に閉じ込められて、1ヶ月だ。1ヶ月も経つ。
暇で、暇で、暇で、暇で、とりあえず、暇で仕方がない。

「喧しい。口を開く暇があるなら、早く目の前の食事を片付けるんだな」

目の前の栄養満点の食事を無視して文句を呟いていると、飛んでくる言葉。

「だって!1ヶ月だよ!?1ヶ月、ベットの上生活!」

「散歩には行かせてあげてるだろう」

「医院の庭なんて、運動にもならないよ……」

街で唯一の大きな病院とはいえ、院長の家も併設されているような、そんな個人経営の病院だ。

普通よりは確実に広い庭があるが、そこを歩いたところで、これまでの行動範囲と同じくらいの運動量が得られるわけもなく……めちゃくちゃ視線を感じながら、千春はとりあえずフォークで目の前に出された苺を突き刺し、口に運んだ。

甘酸っぱくて、美味しい。でも、パスタは……。

「デザートから食べることに、僕は何も言わない。だが、君は自身の体調を戻す気があるのか?予め言っておくが、数値が戻らない限り、君を自由にすることはないからな」

「うっ……」

目の前にあるのは、カルボナーラ。それと、スープ。

「だって動かないから、お腹空かな……」

「ならば、動くか?しかし、任務は禁止だ。勿論、激しい運動も禁止。身体に宜しくない食事も、勿論無しだ」

「先生〜、少しは優しくしてよ〜」

お腹に穴が空いた日。
次に目を覚ますと、院長─ドクターの姿はなく、枕元には学者様─先生がいた。

先生は簡潔に自己紹介をすると、1枚の紙を目の前に出してきて、

『君は身体がボロボロだ。これ以上はないくらいにな。よって、数値が正常化するまで、仕事は禁止とする』

淡々と告げられた時は、色んな思いが込み上げた。
彼はくどくどと口煩くて、初対面なのになんでここまで言われなければならないのかと、腹が立った。

『そんな勝手なことを言われても困るよ。僕には僕の仕事があって、僕は……』

しかし。

『きちんと、君の職場には説明している。向こうから、野に放っても大丈夫になるまで、君を預かってくれとも頼まれている。君が健康体になるまで、僕が診るから』

先生の方が、何枚も上手だった。
そして、胃が荒れるといけないから、と、翌日からは重湯が出てきた。よく分からないけど、薬も飲まされて、ずっと点滴にも繋がれたまま。

1ヶ月。1ヶ月だ。これまで怪我しても、最高で10日間しか入院したことがなかった僕が、1ヶ月!