☆。.:*・゜


「─で、ハルは?」

千春を真っ先に病院送りにした功績を認められ、夏鶴に奢ってもらったアイスを食べていると、一人の青年がやってきた。

深く帽子を被り、サングラスを付けた男は俺を見つけると、真っ先に傍に来て、頭を撫でてくる。

「よくやった、アキ」

「えっへへ、どー致しまして!」

にっこり笑って返すと、彼はフッ、と、笑った。

「ハルは寝てる。院長の手で」

「そうか。─チッ、暫くは閉じ込めておくか」

「まぁ、それもありかもね」

黒橋家が作った、国から独立した街─【東雲】は、国が管理する“外の世界”とはあまりにも違う。
そのひとつとして、まず、公的な職がない。
つまり、警察などの存在がないのだ。
しかし、取り締まる役目を負う人間がいなければ、どんなに整えられた街でも、いつかは綻びが出るだろう。

そうして、生まれたのが【黒宮家】だった。
【黒宮家】に属するものは、“外の世界”で生きることが出来ないもの、この街で生まれたものなど様々だが、当主である黒宮結(クロミヤ ユイ)を筆頭に、幹部が四名、情報屋が一名、その他、構成員が多数ーという形で構成されている。

黒宮結はかつて、“外の世界”で殺し屋をやっていた。
国が作り出した極秘組織で産まれ、親の顔も知らぬまま、技術を仕込まれ、【キリングドール】として生きていたが、とある事件で組織が壊滅し、その後、行き場をなくしたところを、伝手で健斗さんに拾われたと聞いている。

【東雲】は健斗さんが作り直した街であるが、国から独立することになったきっかけは、隣町から及ぶ残虐事件や、近くの廃墟で行われていたという人体実験が原因である。

深刻なそれは街全体を巻き込んでおり、街に住む人々の家族親族がターゲットであった。
若い娘、子どもなどから狙われ、目的も何も分からない人体実験の裏側では国が関係しているという噂も立ち、隣町で国と懇意にしていた地主が起こした残虐事件も相まって、国は責任を取れなくなった。

最終的にしたのは、トカゲの尻尾切りだ。
─健斗さんは実家がこの土地にあったこともあり、街の人に親身になった。父親を亡くした後、実家に帰っていなかった健斗さんはたまたま帰った時、事件を知ったという。

そこで積極的に行動していたところ、目をつけられ、国が切り捨てることにした土地を3つ宛てがわれた。

健斗さんは『やっぱ、頭おかしい奴はおかしいな』と思っただけで、その後は街に住む人々がこれ以上、苦しむことがないように手を尽くし、街を作り直した。

職を無くした人々や、“外の世界”で行き場をなくした人も、積極的に街に受け入れ、多くの意見を合わせながら、作り上げられた街。

“外の世界”とは違うカリキュラムは多くの優秀な人材を生み出しながら、国にも目をつけられることが多くなった。
しかし、法律の通用しない街において、悪を排除するのは黒宮家の役目。

黒宮家は健斗さん公認のもと、裏でも暗躍していた。
そのひとつが、健斗さんが親しくしているという、“外の世界”の警察からの依頼受け。

極秘任務であるそれを受けるも受けないも、黒宮家の人間
の自由である。
しかし、身体を動かすこと以外を知らない彼らは基本的に依頼を受けて、身体を動かし、発散する。

健斗さんは身体を動かしたいと願う黒宮家のために、定期的に極秘任務を持ってくる。

しかし、その任務に参加するにあたり、絶対的な条件が【死なないこと】である。