「君はよく口が回る方だということが分かった。聞いてはいたが、本当のようだな」

痛む鼻の頭を撫でる。黙ったまま、彼を見ると。

「怪我人は静かに、治るまで安静にしていれば良い。大体、君を預かると約束したのは確かに僕だが、それはあくまで医院が預かるという話だ。そもそも、松山さんに君の面倒を申し出たのは僕であり、君の料理を僕が作っている理由に関しては、君が少食で偏食の上、生活習慣が乱れていて、血液検査の数値があまりにも悪すぎて、他の患者と足並みを揃えることが難しかったからだ。僕の仕事の件を気にしているようだが、廃墟研究は問題なく進んでいるし、今は調査の結果待ちだから、問題ない」

「……」

つらつらと疑問に答えを与えられて、何も言えない。

「他に、尋ねたいことは」

「ないよ」

あるわけが無い。思わず食い気味で答えると、

「ならば、よく噛んで食べてしまえ。食べ終わったら、横になって休むんだ」

「…………」

「返事は」

「はい」

先生はハルの返事を聞くと、そのまま、部屋から出ていった。迷いの無い足取りや背中が、ドアの向こうに消える。

圧に負けて、思わず返事をしてしまったが、正直、眠気なんてない。でも、寝ないと怒られるのだろう。

「期間限定とはいえ、とんでもない主治医がついたもんだな……」

退院したいと喚きながらも、正直、まだ痛かった腹部を撫でる。

ご飯の後に寝るなんて、なんて贅沢なんだろうと思いながら、ハルは美味しいカルボナーラの続きを口に運んだ。