眠る彼女の世話係(改訂版)



「……あ。おはよう、りるはちゃん。よく寝れた?」

 痛いぐらいの夕焼けが、目に入った。夏樹はベッドのそばにいて、眠っている間私の手をずっと握っていたようだった。夏樹は慌てた様子でパッと手を離す。
 夢から覚めた私はというと、もうどうしたらいいか分からない涙がじわじわと溢れていた。私が何か言い出すのを待っていた夏樹は、私の顔を見て悲しそうな顔をする。

「りるはちゃん……」

 
「……もう、もうどうしたらいいか分からないの」


 やっとの思いで絞り出す。喉の奥が急激に熱くなる。

(痛い。痛い痛い痛い痛い痛いーー。)


「さっき、みんなと会えたんだ、ずっと前から夢なんて見てなかったのに」

 精一杯笑顔を作ろうとする。夏樹は少し驚いた顔をした。

「生きて、欲しいんだって。でも、ね、私の帰る場所は……もう、なくって。ふわふわと……私が地縛霊みたいな、取り残されて、もうどこにも行けないみたいで」

 ーーずっと、感じてた。かつての家はもうない。以前のように笑い声や話し声がすることもない。死ねない私は、現世に取り残された亡霊のようだった。

「私、元々死にたがりだし……。でも、夏樹が」

 俯きがちだった目線が少し上がる。ちょっと不安そうな表情でいる夏樹と目が合った。

「……私が幸せになるお手伝い、してくれるって言ってたから……」

 パッと目が開く。夏樹は、自分の言葉が私に届いていたことが嬉しそうに見えた。

「うん」


「生きてて、いいの?私、ちゃんと幸せになれる?私は、毎日、死にたいって……そう思っちゃうのに」


 どうしようもなく思ってしまうのだ。何度も、何度も。今こそは自傷行為をしていないものの、精神状態がよくなかった時はひどかった。またいつそうなってしまうか分からない。
 私が苦しさから逃れようと自傷行為をするたびに、ボロボロに傷つく家族を見るのが辛かった。自殺行為を止める側にも心はあるのだから、やめない限り、やはり参っていってしまうのだ。クラゲみたいに、跡形もなく消えられたらどれほどよかっただろうかと、本気でそう思った。

 だから、他人である夏樹を自分の問題に巻き込むのが嫌だった。

「私、生きてるだけで迷惑かけるよ。何回話しても、何回説得されても、何度も死にたいをぶり返す。……それでも?」

 諦めて欲しい。手に負えないって、見放して欲しい。そうしたらきっと、心置きなく自分の命を諦められる。


「何度でも、生きてて欲しいって、そう伝えるよ。ずっと……そばにいる」


 ボロボロと涙がまた溢れてくる。夏樹は前と同じように、ぽんぽんと優しく頭を撫でた。

「そっかぁ……。諦めて、くれないんだぁ……」

 夏樹はちょっとだけ意地悪そうな顔をして言う。

「諦めてあげないよ、これから幸せになるんだから」

 その言葉を聞いて、私はうん、と涙まじりに頷いた。