気がつけば空は真っ暗になっていて、途中で暗いと思ってつけたデスクライトだけが部屋を照らしていた。ずん、と重くなった頭を抱えた俺は、のそのそと彼女のベッドのそばへと向かう。
「……それ、わたしの……」
ぼんやりとした声が耳に届いて、びっくりして思わず小説を落としそうになる。睡眠薬の効果は短くて1日半。もちろん体格だとか体調とか、個人差も関係あるが、少なくとも彼女が目覚めるはずの時間じゃなかったのは確かだった。
「……それね、わたしの、お話……。あの時死に損なったわたしを助けてくれたの、おとーさんと、おかーさんと、おねーちゃん……」
彼女は力の入らない腕で顔を隠す。意識がはっきりしてきたのか、彼女のぼんやりとしていた声はだんだんと悲痛な叫びへと変わっていった。
「私の家族はね、私の小説のヒットをお祝いしようって、そのサプライズのために死んだの。……私が、家族を殺した。私があんな小説書かなければ今も、みんなで笑っていたかもしれないのに……!」
俺はまた、なんと声をかけるのが正解かがわからなかった。かつて絶望の底にいた彼女を救い出してくれた彼女の家族はもう、いない。一度見えた希望は、いとも簡単に彼女の前から姿を消したのだ。
「……でも、りるはちゃんの小説に救われた人はたくさんいるよ、俺の友達とかだってーー」
言いかけて、俺は直接彼女の目が涙に濡れているのを見た。痛くて痛くて耐えきれなくて、息をすることでさえしんどそうだった。彼女はかすかな声を絞り出す。
「他の人が幸せになったって……家族を不幸にしたんだから、そんなの、意味なんてない……」
「りるはちゃん……」
ごろんと壁側に寝返りを打った彼女は、もう何も話さなかった。俺も、何を話せばいいかわからなかった。
夜の帷が、きっと俺も彼女も包み込んでしまったのだ。

