今日も向かいの席の藍田さんはキラキラしている。大きすぎない奥二重の瞳は、なぜかエアコンが効いてるオフィスでも潤いたっぷり。
そして口角が上がった唇は血色がよく見るからに柔らかそうでついつい目に入ってしまう。
毛穴が全く見えない白いツルツルの肌には軽く嫉妬してしまうほど。
そんな女の子みたいな可愛い顔からは想像できない低音の声。耳元で囁かれたい、なんて声も多数。
このギャップに心を奪われる他部署の女性社員達。そう、他部署の…

我が営業部の課長、藍田光希29歳。29歳には見えない可愛い顔の藍田さんは常に厳しい表情を崩さない。

部下のミスは萎縮するほど叱責するし、藍田さんがフロアにいる時の緊張感といったら誰も笑えない。

もちろん、ミスする方が悪いんだけれど。わかっていても怖い。怖すぎるのだ。だから、営業部の女性社員は心を奪われることはない。せいぜい目の保養どまりだ。

過去に営業部に配属されたばかりの新人が藍田さんに告白をしたことがあったらしいが、立ち直れないほどのひどい振られ方をしたという噂がある。その新人は次の日から来なくなったとかなんとか。

私が入社した時、そんな噂がすぐに耳に入ってきた。
「絶対好きになっちゃダメよ」先輩達は新人の私が傷つかないように忠告をしてくれたこともあったほど。

「加藤さん、何か」
ふいにこちらに鋭い視線を向けられて、ハッと我にかえる。藍田さんのツルツル肌をボーッと睨んでしまっていた事に気づく。

「…すみません、考え事をしていました」
表情を崩さないよう、ギュッと顔に力を入れて藍田さんと目を合わせる。
眉間に皺が寄ってるのに、潤ってる瞳。潤いの無駄遣いじゃない?なんてボーッとしていた自分を棚に上げて、藍田さん自身ではどうにもできない部分に心の中で毒付いてしまう。そして自覚する。私、イライラしてる。

私の返答を聞いてそれには何も言わずにパソコンに視線を戻す藍田さん。

私も今日中に終わらせなければいけない仕事に集中しなければと目の前のパソコン画面に目をやる。

イライラの理由は考えないようにと頭の隅の隅の隅にエイッと追いやる。

今は営業補佐の仕事に集中しなければ。