【マンガシナリオ】こじらせ推し林檎の味は初恋

【第二話】

── 野薔薇学園・一年二組・教室──(朝。季節は春、高校に入学して二カ月程とする)

・鈴は窓際の一番前の席、後ろは林檎の席とする。(出席番号順とする)
・鈴が机で教科書を片付けている。

鈴(はぁ……咄嗟になんか逃げちゃったけど)
鈴(どうせ教室で会うんだよね……)
鈴(それも林檎、出席番号順だから私の後ろの席だし)

鈴「はぁああ」
??「鈴ー、おはよ」
鈴「あ、玲乃ちゃんおはよ」

・鈴が顔を上げれば友達の梶川玲乃(かじかわれの)が鈴の通路挟んで右隣に座る。
・玲乃は、ゆるふわウェーブの美少女。小さい頃は子役をしていた。性格は見た目よりもサバサバしていて面倒見がいい。

玲乃「どうしたの? 浮かない顔して」
鈴「ちょっと色々とその……」
玲乃「あ、また林檎くん?」
鈴「ちょっと声大きいよ」
玲乃「ね。昨日発売の“メンズノエル”林檎くん特集ページだったじゃん」
鈴「うん」

鈴(林檎の活躍は嬉しいのに……)
鈴(どんどん遠くに行っちゃう気がするな)

・玲乃が鈴に顔を寄せる。

玲乃「そんな顔してるなら、こっそり推し活してないで、告白しちゃえばいいのに」
鈴「え! 無理だよっ、私なんか全然林檎に似合わないし……そもそも林檎は恋愛興味ないし」
玲乃「そうかな? 二人、すっごくお似合いだと思うけどな」
玲乃「林檎くんもまんざらじゃなさそうだし」
鈴「えぇ?! どこをどう見たらそうなるの?」
玲乃「んー、それは林檎くんに聞いてみるのが早いかも」
鈴「聞けないよっ」

・鈴たちの会話に聞き覚えのある声が割り込んでくる。

林檎「なに? 俺の話?」
鈴「わっ!」

・鈴が目線を上げれば、林檎とイケメン男子・海野流星(うみのりゅうせい)が立っている。
・流星は林檎とクラスで一番仲がいい。流星は水泳部で身長183センチ。シャープな目元に黒髪の短髪。流星の席は林檎の真後ろ。

玲乃「林檎くん、流星と一緒だったんだ」
林檎「そう、コイツと下足でばったり会った」
流星「てかさ~、下足からここまでくんのにいつもより時間食ったわ、林檎のせいで~」
林檎「うるさいな」
流星「あんな塩対応するくらいならさ、はやく彼女作っちゃえば? そしたらLINEおしえてください~、一緒に写真撮ってください~、とかもなくなんだろ」
林檎「……どうでもいい。興味ないし」
流星「ふうん」

・その言葉に鈴が胸がズキンとする。

鈴(そうだよね。林檎は女の子に興味ないもんね)
鈴(だから……私の想いも迷惑なだけ)

・流星が鞄から玲乃にいちごミルクのパックを差し出す。

流星「これ玲乃に。コンビニ寄ったら新商品ってなってたから」
玲乃「わぁ。ありがと~」

・玲乃は嬉しそうに流星からいちごミルクのパックを受け取る。

 流星「あとで一口ちょーだい」
玲乃「一口だけね」

鈴(仲いいな)

林檎「朝から見せつけてくれるよなぁ、お二人さんは」
(※ここで読者に玲乃と流星が付き合っていることを提示)

流星「なに妬いてるとか?」
林檎「んなわけあるか」
流星「じゃあ、いいじゃん。俺らずーっと幼馴染でようやく高校なって付き合えたんだから」
流星「な、玲乃」

・流星は玲乃の後ろからバックハグ。
(※ここで玲乃と流星も幼馴染ということ、高校生になってから付き合いはじめたことを読者提示する)

玲乃「ちょっと流星っ」(頬を染める玲乃)
流星「はいはい、怒んないで」

・玲乃が叱るように目を細めて流星の腕を解くと、流星は林檎の後ろの席へ移動する。
・それを見ながら林檎が鈴の肩をツンとつつく。

林檎「鈴。さっき俺のなんの話してた?」
鈴「何も……してない」
林檎「俺の名前出してたじゃん」
鈴「気のせいだから」
林檎「……」

──ガラリ、教室の扉が開いて担任教師が入って来る。

(※林檎視点に切り替える)

林檎「はぁ……」

・鈴にいつものようにそっけなくされて、林檎はまたため息を吐くと不貞腐れて肘を突く。
・流星が後ろから林檎の耳元に唇を寄せる。

流星「……林檎に言ったさっきの話だけど。うかうかしてると鈴ちゃん、持ってかれるよ」
林檎「うっさい。わかってる」
(※読者に、林檎は流星から鈴に関するある情報を聞いたという伏線を入れてから場面展開)

──放課後・図書室──(夕方)

鈴「よし、今日の委員の仕事もおしまいっと」

・図書委員をしている鈴。返却図書の整理が終わると、“話題の本”の棚に置いてある、ある恋愛小説が目に入り手に取る。

鈴「あ、これ……」

鈴(幼馴染同士の両片思いのお話で、実写映画化されたって話題になってやつだ)

・そこへ同じ図書委員で隣のクラスの加納智樹( かのうともき)が話しかけて来る。
(※当て馬。爽やか好青年で、医者の息子。身長180 勉強はいつも一番でスポーツも得意だが裏の顔を持つとする)

??「こっち終わったけど、藍田さんも終わった?」
鈴「あ、加納くん。こっちも終わったよ」
加納「ん? それ、先週から始まった映画の原作小説だよね」
鈴「うん。前一回読んだんだけどすっごくよかったから、もう一回借りて帰ろうかな」
加納「僕も読んだんだけど、すっごくいいよね。ラストの花火大会のところとか」
鈴「わかる!! あのシーンで二人の長い片思いがようやく実るんだよね~」

・話が弾むふたり。

加納「ねぇ、藍田さん明日とか暇?」
鈴「え?」
加納「土曜だし、良かったら僕と一緒に映画見に行かない?」
鈴「あのえっと……」

鈴(えぇっと……これは……もしかしてデートとかいう……いやいや違うよね)
鈴(共通の趣味を共有しませんかってことだよね)

加納「……あのさ、前から聞きたかったんだけど、藍田さんって彼氏いたりする? 同じクラスの伊崎と仲いいって聞いたけど」
鈴「ううん!! 林檎はただの幼馴染だから」
加納「そっか。良かった。じゃあ映画一緒に行ってくれたら嬉しいんだけどダメかな?」

鈴(どうしよう、男の子から誘わるとか林檎以外初めて……)
鈴(見たい映画だし……加納くんはいい人だし……)

加納「……ごめん。迷惑だったね」
鈴「そんなことないっ、あの、誘ってくれてありがとう。私……一緒に」

・返事をしようとした鈴。そこへ林檎がやってくる。

林檎「鈴」
鈴「あれ? 林檎?」
林檎「悪いけど明日、俺らその映画見に行くことになってるから」
鈴「えっ!!」

・林檎の言葉に加納が眉を顰める。

加納「ほんとに?」

・加納は林檎の前に立つ。二人は暫く視線をぶつけ合う。

林檎「じゃあ三人で行く?」

・不敵に笑う林檎。

加納「いや……今回は遠慮しとくよ」

・加納はふっと笑うと林檎から視線を逸らす。

林檎「あっそ。じゃあ鈴、帰ろ」
鈴「え、ちょっと……」

・林檎は強引に鈴をつれて図書室をあとにする。
・林檎は鈴の手を引いたまま廊下から階段を降りていく。


──階段・踊り場──(あたりには誰も居ないとする。)

鈴「林檎、ちょっとどうしたの! 一体何?!」
林檎「……」
鈴「映画の約束とかしてないし意味わかんない」

・鈴は林檎が繋いでいる手のひらを見る。

鈴「これも離してよっ」
林檎「わかった」

・林檎は手を離すとそのまま鈴を壁ドンする。

鈴「……な、に」
林檎「……なの?」
鈴「え?」
林檎「鈴はアイツみたいなのがタイプなの?」
鈴「何言って……」
林檎「答えて」

・林檎は嫉妬が混じった切ない顔で鈴を見つめる。