【マンガシナリオ】こじらせ推し林檎の味は初恋

【第一話】


(ヒロイン:藍田鈴(あいだすず)の夢の中の回想)
──十年前・クリスマスの夜──

林檎(りんご)(ヒーロー)『おたんじょうびおめでとう、すず』※ヒロインの鈴は誕生日がクリスマスとする。

・林檎は鈴に折り紙で作ったお花をプレゼントする。

鈴『わぁい、ありがとう』
林檎『おとなになったらほんもののバラのはな、あげるね』
林檎『だからそのときは、ぼくのおよめさんになってよ』
鈴『うん、いいよっ』

・ふたりは微笑みあう。


─鈴の自室──(朝)

・アラームの音が鳴る。

鈴「ん……っ」
鈴(また見たな……小さい頃の夢)
鈴「もう推し活だけにするって決めたじゃない」

・鈴は起き上がると制服に着替え、名札『藍田』をつける。
・そして鈴は昨日の夜、寝る前見ていたベッドの上の雑誌に目を移す。
・そこには雑誌メンズノエルの中の特集ページ『人気読者モデル、伊崎林檎こと“リンくん”のデートコーデ』の見出しがおどっている。

鈴「うぅ、推しは朝から見てもカッコいい……」

(地の文)──私には推しがいる。
それは隣の家に住んでいて、生まれたときからずっと一緒の幼馴染の伊崎林檎(いざきりんご)
この雑誌の中のキラキラしている“リンくん”が私の幼馴染であり密かな推しだ。

鈴(すごいな、林檎ついに特集ページ載るなんて)

(地の文)林檎はファッションデザイナーである母親の理恵(りえ)さんの手伝いにスタジオに訪れた際、モデルスカウトされ中三の秋からモデル活動を始めた。

鈴(この半年で林檎のインスタのフォロワーも三万人突破したし……)
鈴「すっかり私とは違う世界に行っちゃったな」

・雑誌のなかで色んな表情をみせている林檎はキラキラ輝いて見える。

鈴「林檎、きらきらしてる……それに比べて」

・鈴は自分を姿見に映す。

鈴(なんて平凡なんだろう)
鈴「……もっとキラキラして可愛かったらな」
鈴(そうしたら……この気持ちくらいはせめて伝えられたかもしれないのに)

・ぶんぶん首を振る鈴。

鈴「せっかく高校生になったんだし……これからも内緒で推し活は続けるとして……」
鈴「絶対新しい恋はみつけよう!」
鈴(この恋を忘れるためにも)

(地の文)私はこの時、まだ知らなかった。この恋の味がリンゴのように甘酸っぱくて一生忘れられない恋になることを。

・そのとき、階下から母親の声が聞こえてくる。

鈴の母親の美琴「鈴ー、ご飯できたわよ~」
鈴「はぁい、今行く」

・鈴は雑誌をパタンと閉じると階下へ降りていく。

──藍田家・リビング──
・おにぎりとお味噌汁に焼き魚が食卓に並んでいる。
・看護師をしている母親の藍田美琴(あいだみこと)はジャケットを羽織る。

鈴「お母さん、今日病院、夜勤だっけ?」
美琴「同僚が風邪ひいちゃったらしくて急遽出勤することになって。でも夜には帰るから」
鈴「そうなんだ、じゃあ夜なんか適当に作っとくね」

・玄関で靴を履く美琴。

美琴「ありがとう、でも無理しなくていいから」
美琴「お弁当買って帰ってもいいし」
鈴「大丈夫、料理好きだし」

・微笑みあう鈴と美琴

美琴「じゃあ行ってくるね」
鈴「行ってらっしゃい。気をつけてね」

・玄関を出ようとして美琴は鈴の方を振り返る。

美琴「あ……っ、今日の夜、鈴に話したいことあるんだった」
鈴「話したいこと?」
美琴「そのことで夜、理絵と林檎くんにも来てもらうことになってるのウッカリしてた……」
鈴「え?! 理絵さんだけじゃなくて林檎も?」
美琴「そうなの。ご飯食べながら、林檎くんと鈴の意見も聞きたくて」
鈴「それ、どういう……」
美琴「あ、電車の時間……っ、また帰ったら話すわね」
鈴「なんだろう?」

・首を傾げながら美琴の後ろ姿を見送る鈴。


──藍田家・玄関──
・鈴は玄関のカギを閉める。
・そして門扉を開けて出ると、制服姿の(名札は伊崎)長身の男の子が壁に凭れている。グレーのチェックのブレザー姿。ネクタイは紺色とする。(ヒーロー初出)
(※ヒーロー伊崎林檎:鈴の幼馴染でメンズノエルの人気読者モデル。艶やかな黒髪に身長185センチ。左耳にピアスがひとつ。鈴と同じ高校で同じクラス)

・通りすがりの通学中の同年代の女の子が林檎をチラチラ振り返っている。

鈴「え?! 林檎っ?!」
林檎「おっそ。行こ」
鈴「な、なんで?」
林檎「なんでって、たまには一緒に行ってもいいじゃん」
鈴「いや、周りの視線が……」
林檎「周りとかどうでもいいじゃん。小さい時みたいに手引いてやろっか?」
鈴「け、結構です!!」

・林檎がぷっと笑ってから歩き出し、仕方なく隣に並んで歩く鈴。

鈴(林檎とこうやって一緒に登校するの久しぶりだな)
鈴(また身長伸びた……?)

林檎「なぁ、今日の夜のこと、美琴さんからなんか聞いた?」
鈴「ううん、お母さん急に出勤になったから夜話すって。林檎は理恵さんから何か聞いたの?」
林檎「いや、母さんももう会社行ったけど、詳しくは夜って言われたから」
林檎「何の話か知んないけどほんと仲いいよな、俺らの母さんたちって」
鈴「だね。幼稚園からの幼馴染で、結婚してからも隣同士に家建てるくらいだもんね」
林檎「ほんとそれ。てか、それ考えると俺らは生まれたときから幼馴染だな。すごくね?」

・林檎が背の低い鈴に顔を寄せる。

鈴「えっと、そうだね……」

・鈴は恥ずかしくてすぐに林檎と距離を取る。

鈴(あ……ちょっと不自然だったかも)

林檎「……」

鈴(林檎をただの幼馴染だと思えてたときもあったのに、つい意識しちゃう)

林檎「……てかさ。高校入ってから、急に俺と一緒に行きたくないとか未だに意味わかんないけど」
鈴「そ、それは何度も言ったでしょ」
鈴「林檎はただでさえ目立つし、その……一緒に歩くと居心地……悪いし」
林檎「それどういう意味? 俺が背高いから鈴が背低いの目立つからってこと?」
鈴「確かに……背が低いのコンプレックスって言ったけど」
鈴「とにかく、もう林檎とはこう世界が違うって言うか林檎はこの辺じゃ有名人なんだから、あんまり私と一緒に居ない方が良いと思うって言ったよね」
林檎「有名人っていうけど、鈴って俺のモデル活動とか全然興味ないじゃん。ない人からしたら俺もそのへんの人と一緒じゃね?」
鈴「それは……」

鈴(実は林檎の推し活してて……)
鈴(……陰でこそこそ林檎の載ってる雑誌買ったり、インスタ見てるとか死んでも言えない……)

林檎「鈴、何考えてんの?」
鈴「べ、べつに何も……」
林檎「なぁ。俺も何回も言ったけど、モデルしてるからって鈴と俺の関係まで変える必要ないと思うけど」
鈴「へ、変な言い方しないでよ」
林檎「変なって?」
鈴「この年で幼馴染だからっていつも一緒っておかしいでしょ」
鈴「か、彼氏できなくなるかもじゃん」
林檎「は? 彼氏? 鈴にそんなのいらねーだろ」

・林檎がムッとした表情をしてそう言うと、鈴はすぐさま言い返す。

鈴「なにそれっ、林檎に関係ないじゃないっ……」

鈴(人の気も知らないで……)

・そのとき、車が後方から走って来る。

林檎「鈴っ!」
鈴「……きゃっ」

・林檎は鈴を抱き寄せる。
・車はあっという間に走り去っていく。

林檎「あっぶな」
林檎「鈴、大丈夫か?」

・気づけば、鈴は林檎の腕の中で鈴はドキドキする。
・林檎の端正な顔に覗き込まれて真っ赤になる鈴。

鈴「だ、大丈夫」

鈴(ダメ、いま絶対林檎の顔見られない)
鈴(絶対顔赤い……っ)

・その時、周りから声が聞こえてくる。

モブA他校の女子生徒「あれ、リンくんだよね」
モブB他校の女子生徒「隣の子、彼女?」
モブA他校の女子生徒「まさか違うでしょ、どうみてもアレ」

鈴「ごめん、先行く」
林檎「ちょっと待って」

・林檎を無視して校門に向かって走っていく鈴。

──校門前・歩道──(※林檎視点)

・鈴が駆けて行き一人残される林檎。

林檎「また逃げられた……」
林檎「てゆうか……彼氏つくるとか聞いてねぇんだけど……」

・拗ねたような顔で小さくため息を吐きながら教室に向かう林檎。