「セレイア、少し痩せたのではないか?」
「普通です」

そう言いつつ、ここのところ食事が喉を通らない。

(そう言う殿下もやつれていらっしゃるのでは? 絶対、この魔法のせいだわ)

食虫植物を見ながらアレクサンドリアが呟く。

「セレイアは植物が好きなのか?」
セレイアは「はい」と口を動かそうとすると動かない。
(植物に対してもダメなの?)
「普通です」

とりあえず間を埋めるために答える。
それにしても会話が盛り上がらない。

(もっと殿下の事、知りたいのに~)

セレイアからの質問は口が動かなくてできない。

(制約多すぎ!手を繋いだりしたいのに)

手を繋ごうとする度、きゅっとして指が開かない。

「セレイア、私の事どう思う?」
「……普通です」
(大大大好きです!)

セレイアは気持ちとは別にこう答えるしかなかった。

「普通か……嫌いよりマシだな」

アレクサンドリアの中では嫌いよりランクアップしていることに喜んだ。
彼の自尊心は地べたを這っていた。

(なんてポジティブなの! 殿下好き!)
「殿下……」

セレイアの気持ちは盛り上がったが、好意を形にすることはできなかった。
アレクサンドリアはセレイアに髪飾りをプレゼントした。それを付けて貰う。
セレイアは思わず、抱きつこうとしたが両足の裏が地面にくっついてつんのめった。

抱き止めるアレクサンドリアも驚いている。
甘い香りをより強く感じた。

気がつけば鼻先が触れそうな距離にアレクサンドリアの顔がある。
長いまつ毛と宝石のような青い瞳。
真っ赤になるセレイア。
そのまま離れていく。

「大丈夫か?」
「普通です」

(絶対、今のはチャンスだったのに!)

はしたないかもしれないがセレイアはキスできたかもと素で思う。
好意が制限されて欲求不満になってきたのかもしれない。
帰りの時間になり家まで送ってもらった。


× × ×

アレクサンドリアが書類仕事をこなしながら話す。

「普通らしい……嫌いよりは進んだかな」
「楽観的ですね」
「セレイアが可愛く恥じらっていたぞ」
「よく襲いませんでしたね、偉い」
「どんどん人としての基準値が低くなっていないか?」

そう言いながらここ最近の中では一番機嫌が良い。
久しぶりに食べ物をちゃんと食べることができた。