「どういうことです?」
「セレイア嬢が、アレクサンドリア殿下に噛み付かれてしまいました」
「殿下は酔っ払っておられたようで」
「番なのでしょう」
「そのようですな」

「娘が殿下の番だったとは……」

伯爵はため息をついた。
めでたいことなのだろうが厄介な事はごめんだ。
ノルディクス伯爵家はそこそこ財力も力もある。娘はすぐに嫁に行く必要性もないと思っていた。

「社交界デビューでいきなり手をつけられるとは、しかも酔っ払って。全然ロマンチックじゃない!」
ノルディクス伯爵は結構なロマンチストだった。

番に出会ってもその場で噛み付いて良いわけではない。
仮婚約から婚約までしてから証式で証痕を付けるのだ。ちゃんと段取りがある。

「それでセレイアの様子は?」
「ショックで眠っておられます」
「いきなり噛まれて可哀想に」

ノルディクス伯爵は娘を溺愛していた。
黒髪とそばかすが特徴のあどけない娘だ。地味と揶揄されることもあるが決して不細工ではない。むしろ可愛い。