☯あおむしの旅☯


 しばらくして、おとこの人はゆっくりと立ち上がると、ぼくの方に歩いてきた。

そして、じぶんのリュックサックを見つめてつぶやいた。

 「帰ろう・・・」

 そうだよ、帰ろうよ。みんなが待っている・・・。

 おとこの人は、小さな声だけど、力強くいった。

 「帰ろう・・、帰ってもう一度・・・」

 よかったー。これでぼくも帰れる。

 「もう一度、そう、もう一度・・・」

 おとこの人は、こんどは大声でいった。

 「生きるぞー、生きるぞー!」

ほんとうによかった。帰ったら、ぼくもがんばってきれいなアゲハチョウになるよ。


 おとこの人は、ぼくをリュックサックのポケットに入れたまま、一歩一歩、山をおりはじめた。

 ぼくはほっとして、また、リュックサックのポケットの中で、ねむってしまった。

(おしまい)