ぼくの入ったリュックサックは、ゆっくり、ゆっくり、山のほそ道をのぼって行く。

ひがしの空がすこし明るくなってきた。

 ぼくはリュックサックのポケットの中で、ゆらーり、ゆらーり、ゆられながらねむってしまった。

 ドスン。

 きゅうに音がした。ぼくはびっくりして目をさました。

 リュックサックは、大きな岩の上におかれている。

 空があかるい。

 おとこの人は、リュックサックとぼうしを、岩の上においたまま、がけの上まで行った。

 目の下に、大きな滝つぼが見える。ぼくががけの上だとおもったのは、じつは滝の上だったんだ。

 おとこの人は、その滝の上で、じっと立ったままうごかない。

 なんかへんだ。おとこの人は、じっと滝つぼを見つめている。

そして、きゅうに上を見あげた。

 あっ、だめだー、いけないよ飛び降りちゃ。

 ぼくの声が聞こえないのかしら。ぼくはもういちど、

 とびおりちゃー、だめだよー。聞こえないのー?

と、大声でいった。