「重複記憶錯誤かも知れません。普段の生活に問題は無いようですし、ただ貴方への記憶のみが違うと言いますか」
「記憶は全部戻るんですか?」
一応家族として参加をし医師に質問すると目を逸らされカルテに目を落とした。
階段を踏み外した私にも責任はある。
それ相応の償いは必要だとも思う。
「徐々に戻る事もありますが…断言はちょっと」
医師は困惑顔で再度私達に目を向けた。
「分かりました。生活に支障なさそうだし…」
おばあ様やご家族は「気長に待てば」と口々に呑気な笑顔を交えて話してる。
「でも!記憶が…」
私は困る!
記憶が無くなってるんじゃなくて無い物が追加されてるわけで。
「記憶がないわけじゃないし増えてるだけだから良い方だと思うの。珠子ちゃんは大輝の事嫌い?」
「そうね~。減ったわけじゃないしな」
お義父様も呑気な事を…
嘘も本音もご家族に囲まれたこの状況で何とも言いづらい。
家族の前で好きとか嫌いなんて言えますか?
「じゃあ、そのままで良いじゃない~」
お義母様は朗らかに話すと、
「そうよね~。もしかして珠子ちゃんが記憶を失ってるのかも知れないじゃない?」
「無いだろ⁈」と突っ込みたくなるような事をおばあ様も言い出してお義父様もマネージャーそっくりの笑みを浮かべた。
「それなら私達はもう家族ね」
おばあ様は私をゆっくり抱きしめた。
ーーー
それから検査を受けた私はすぐに退院して仕事の合間にマネージャーのお見舞いに行く生活が続いてる。
最近はマネージャーのご実家に招待され食事をしたり…
蘇芳に来店したご家族の買い物に付き合ったり…
おばあ様の持病の通院に付き合ったり…と周りからすればすでにお嫁さんだ。
それが嫌なら良かったんだけど楽しくて嬉しくて
優しいご家族に私が癒されてる。
「検査異常なくて良かったですね。来週には退院出来るそうです」
「そうか。また仕事か…」
「1ヵ月分仕事も溜まってますよね~。ふふっ」
「退院してから大変だな…」そう呟いて「珠子、あのさ」と話しかけてきた。
「どうしました?」
1ヶ月も呼ばれれば呼び捨ても慣れてくる。
お見舞いで頂いた花の枯れてる部分を取り除きながら耳だけを傾けた。
「改めて…俺と結婚して欲しい」
パサッと音がして彼の方を見ると一生見ることの無いと思ってた婚姻届。
証人欄には彼のご両親の名前が書かれてる。
「忘れてしまって申し訳ない…だから改めて」
この1ヵ月避けていた話題であやふやにして来てた。
「多分、いや前から俺は珠子を好きだったと思うんだ」
多分は記憶が戻ってないから出た言葉だろう。
今の私達の関係上でこの“多分”は仕方ない言葉。
「あのマネージャー記お」
「この1ヵ月全く気持ちは変わらない。珠子が嫌なら…諦める…でも嫌じゃ無ければ」
断ろうと記憶を理由にしようとして遮られた。
「…」
嘘でも気持ちは嬉しい…
家族が居ない私に家族が出来る。
でも…
ただ記憶が戻って離婚する事になったら…
私の気持ちは?仕事は?
(そっか…契約)
「表向きだけの結婚で良いですか?それで良ければサインします」
最初に契約っぽく話したのは彼の方。
彼の記憶が戻った時の保険で今度は私が契約を匂わせた。
「それでも構わない」
私はずるい
優しいご家族に今さら“無理”と正直に話すのは気が進まない。
と言うか私も居心地が良くなってる。
(また罰が当たるかな…)
ありとあらゆる神に彼の記憶の元通りを願おう。
いつか来る別れの事を考えながら。
「記憶は全部戻るんですか?」
一応家族として参加をし医師に質問すると目を逸らされカルテに目を落とした。
階段を踏み外した私にも責任はある。
それ相応の償いは必要だとも思う。
「徐々に戻る事もありますが…断言はちょっと」
医師は困惑顔で再度私達に目を向けた。
「分かりました。生活に支障なさそうだし…」
おばあ様やご家族は「気長に待てば」と口々に呑気な笑顔を交えて話してる。
「でも!記憶が…」
私は困る!
記憶が無くなってるんじゃなくて無い物が追加されてるわけで。
「記憶がないわけじゃないし増えてるだけだから良い方だと思うの。珠子ちゃんは大輝の事嫌い?」
「そうね~。減ったわけじゃないしな」
お義父様も呑気な事を…
嘘も本音もご家族に囲まれたこの状況で何とも言いづらい。
家族の前で好きとか嫌いなんて言えますか?
「じゃあ、そのままで良いじゃない~」
お義母様は朗らかに話すと、
「そうよね~。もしかして珠子ちゃんが記憶を失ってるのかも知れないじゃない?」
「無いだろ⁈」と突っ込みたくなるような事をおばあ様も言い出してお義父様もマネージャーそっくりの笑みを浮かべた。
「それなら私達はもう家族ね」
おばあ様は私をゆっくり抱きしめた。
ーーー
それから検査を受けた私はすぐに退院して仕事の合間にマネージャーのお見舞いに行く生活が続いてる。
最近はマネージャーのご実家に招待され食事をしたり…
蘇芳に来店したご家族の買い物に付き合ったり…
おばあ様の持病の通院に付き合ったり…と周りからすればすでにお嫁さんだ。
それが嫌なら良かったんだけど楽しくて嬉しくて
優しいご家族に私が癒されてる。
「検査異常なくて良かったですね。来週には退院出来るそうです」
「そうか。また仕事か…」
「1ヵ月分仕事も溜まってますよね~。ふふっ」
「退院してから大変だな…」そう呟いて「珠子、あのさ」と話しかけてきた。
「どうしました?」
1ヶ月も呼ばれれば呼び捨ても慣れてくる。
お見舞いで頂いた花の枯れてる部分を取り除きながら耳だけを傾けた。
「改めて…俺と結婚して欲しい」
パサッと音がして彼の方を見ると一生見ることの無いと思ってた婚姻届。
証人欄には彼のご両親の名前が書かれてる。
「忘れてしまって申し訳ない…だから改めて」
この1ヵ月避けていた話題であやふやにして来てた。
「多分、いや前から俺は珠子を好きだったと思うんだ」
多分は記憶が戻ってないから出た言葉だろう。
今の私達の関係上でこの“多分”は仕方ない言葉。
「あのマネージャー記お」
「この1ヵ月全く気持ちは変わらない。珠子が嫌なら…諦める…でも嫌じゃ無ければ」
断ろうと記憶を理由にしようとして遮られた。
「…」
嘘でも気持ちは嬉しい…
家族が居ない私に家族が出来る。
でも…
ただ記憶が戻って離婚する事になったら…
私の気持ちは?仕事は?
(そっか…契約)
「表向きだけの結婚で良いですか?それで良ければサインします」
最初に契約っぽく話したのは彼の方。
彼の記憶が戻った時の保険で今度は私が契約を匂わせた。
「それでも構わない」
私はずるい
優しいご家族に今さら“無理”と正直に話すのは気が進まない。
と言うか私も居心地が良くなってる。
(また罰が当たるかな…)
ありとあらゆる神に彼の記憶の元通りを願おう。
いつか来る別れの事を考えながら。



