あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

ただ私を好きでプロポーズしてくれたのなら喜んでOKしたはず。
先にこんな契約めいたこと言われたら二度とこの思いを伝えるなんて出来ない。

(神様は意地悪だ…)

「すみません。お力には」

もう一度はっきり断ろうと振り返ると8㎝のピンヒールが階段を踏み外し軽く宙を浮いた。

(神様に愚痴を言ったから私に罰を与えたの?)

それはそれは…走馬灯のように昔の思い出が頭に浮かび最後は鉄壁が崩れた彼の必死な顏に微笑んで私は階段を落ちた。


◇◇◇


「…んっ」

目覚めた私の最初の記憶は隣のベッドに横たわる彼の姿と気品漂うご家族の姿。

「あら!彼女は目が覚めたわ!!!あなた先生を呼んで」

優しい目をした女性…マネージャーに似てる。

「気分悪くない?」

もっと優しさを増した年配の女性が慌てて男性の背中をバンバンと叩いてる。

えっと…地下鉄から降りる時に階段を。

「ま…マネージャー?!」

頭がやっと覚醒して飛び起きると点滴を注され顔色が悪い彼の綺麗な横顔が見えた。

「大輝も大丈夫よ。ちょっと腕を骨折してちょっと頭を打ったくらい」

ちょっと…とは言い難い。
目を覚ましてないし…

「藍沢(あいざわ)さんて言ってたかしら…えっと」

「藍沢 珠子(あいざわ たまこ)です。同じ蘇芳百貨店に勤めてます!本当になんとお詫びをすれば…」

「…お詫び?」

あれ?
普通怒る顔しない?
どう見ても好意的な笑顔?

「フィアンセを助けるのはあたりでしょう」