「おめでとう」
「おめでとうございます」
彼の友人に挨拶をして暫しの談笑。
アルバムで見た人だとすぐに分かった。
奥様はスペインの親を持つハーフの方らしく彫りが深めの美人。
会場もスペイン料理のレストランでバルを思わせる。
「彼女が内装を手掛けたんだ」
二人は幸せそうに微笑み合ってる。
「本当にお前こんな美人捕まえたんだな」
「疑ってたのかよ」
ため息吐きつつ肩パンしてる。
「いや、まあ」
言いづらいのを察知した。
多分この友人は円城さんと彼が結婚すると思ってたんだと思う。
「あれ?藍沢さん」
知った声に振り返って助けを感じた。
「安見さん。ご無沙汰してます」
奏の旦那(別居中)さんで有りうちの東館でもVIPなお客様でもある。
「久しぶり。ちょっと藍沢さん借りてくぞ」
「おい」と止める彼に「商談と奏の話」と彼を振り切って私の腕をとった。
「奏に何かありました?一昨日会ったんですけど」
「いや、何もない。助けて欲しそうだったし…あれ見れる?」
あれ?
あれ…
「円城さん…ですよね」
サーモンピンクのノースリーブのパンツドレス。
グレーのスヌードとの組み合わせでスタイリッシュでオシャレ。
アルバムで見たあどけなさは消え大人の仕事の出来る女の彼女は腕を彼に絡ませてる。
「昔の仲間だから気にしないで」
そんな顔に出てたかな?
でも私に何かを言う権利はない。
「安見さんはここに居ても良いんですか?」
複雑な思いを隠し微笑むと
「奏に頼まれた。あいつすげーな」
奏の事なのか円城さんの事か分からず笑うしかない。
「また奏に借り出来ちゃいましたね」
今の私がこう居られるのは奏の“一肌脱ぎ”のおかげ。
胃が良くなったらお酒でも奢ろう
「あいつ藍沢さん大好きだからなー。俺も好きになりそう」
ははっと冗談交じりに話して林檎のジュースをスタッフにオーダーしてくれる。
「私は奏が大好きなんで諦めて下さい」
私を好き?とか言いながら多分奏の事が好きでたまらないんだと思う。
こんな場所で“彼を好き”なんて言えるわけもなくて冗談で返した。
「少し外行く?」
飲み物を受け取って二人で外の空気を吸いに行く。
ちょっとしたチャペルが裏手にあり広場には白いベンチがある。
「気持ち良い」
店内の賑わいで着物だと少々暑くひんやりとした12月の冷え込みですら心地良い。
ベンチから中の様子は見えない。
円城さんと彼を見なくていいのも良い。
「千世。日本に帰ってくるらしいよ。珠子ちゃんのおかげだって」
日本に帰ってくる?
血の気がサーッと引いた。
「私のおかげ…?初めてお会いしたんですけど」
一緒に仕事をした覚えはない。
感謝…なんで?
「奏からちょっと聞いたんだけど今回の広告会社のやつとの不倫騒動で千世も被害者と上層部は考えたらしい」
中原さんの為にした事がまさかの円城さんまで助けてた?
絡んだ糸がどんどん解かれて行ってる感じがする。
彼と円城さんの別れた原因は知らないけどその件が100%関係ないとは言い切れない。
「ゆび…わ」
千世さんであろう名前の入った指輪。
契約のようなプロポーズ。
記憶…中原さん…
色々と頭の中で渦巻いて気分が悪くなる。
「藍沢さん顔色…大丈夫じゃないよね」
頷くしか出来ない。
結局全部元に戻すしか
「もう出ようか」
ゆっくりベンチから立たせてくれる。
「何やってんだよ」
低い声にビクっと身体が震えた。
「久しぶりだろ千世と、あぁ…出張で会ってたんだってな」
やっぱり。
聞きたかった話を安見さんが聞いてくれた。
「お前に関係ない。珠子気分悪いのか?俺と帰ろう」
私の腕を取ろうと手を出した。
今、この手を取るの…
「無理です。あのお願いします」
私は安見さんに軽く微笑んだ。
「あれ~瀬名(せな)帰るの~」
少し酔っぱらった千世さんはまたも彼の腕を掴んだ。
“限界”
頭にこの言葉が浮かんだ。
「千世、離せ」
「何で~?あっ、もしかして奥さん?」
腕を離された拍子にフラついた彼女の身体結局全部支えることに。
「大丈夫ですか?これを…」
彼女にハンカチを渡し彼には
「これ私の物ではないですよね」
一年以上身に着けていた指輪を外し彼の胸ポケットに入れた。
「珠子、どう言うこと?」
中から他の友人達も出て来るのが見える。
「安見さん、よろしくお願いします」
人生で一番綺麗なお辞儀だったかも知れない。
彼女を支える彼は動けない。
私は彼と千世さんに背を向けてその場を後にした。



