あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

彼女の注文したレモンティーが運ばれてきたところで私から話し出した。

「率直に聞くわね。中原さんと白浪社の末廣さんはどう言う関係?」

出来るだけ優しく出来るだけゆっくり話す。
彼女の身体がビクッと揺れて下を向いた。

(これは…不倫関係って事かな)

残念な気持ちでいっぱいになる。
これが本当なら彼女は自主退職と言う名の解雇で彼女に絡む会長にまで被害は及ぶだろう。

「あの…大事(おおごと)にしたくないので秘密にして頂けますか?」

ポツリと小さい声で呟いてテーブルの上で拳を握りしめた。

「秘密は守るわ。ただもし貴方と彼の関係が本当なら報告する義務が…」
「違います!!」

さっきの小さい声とは比べ物にならない声とバンとテーブルを叩いて立ち上がり話を止めた

「実は付きまとわれていて先日も裏口で待ち伏せされてました。さすがに私も抵抗して…」

「ストーカーみたいね…」

立ち上がったままの彼女に微笑み「落ち着いて」と声を掛ける。
抵抗してたの揉めてたと勘違いされたのだろう。
彼女は身体が怒りなのか何なのか身体が震えてるように見える。

「それって地下駐車場とかでも?」

「なっ、何でそれを?!」

下を向いてた顔を勢いよく上げて何故知ってるのか驚いた表情を見せた。

「その…噂になってたから話を聞きに来たんだけど。中原さん大丈夫?」

彼女は嘘を言ってないと思う。
女の感と言うか私の感。

「はい。先日ボディーガードを父が雇ってくれましたので今後は誰かしら居てくれます」

さすがお嬢様…
私の考えの何回りも上の答えが返ってきた。
それなら安心だし噂になる事はこれ以上無いと思う。

(防犯カメラで真相が分かりそうね)

最近多くなった色んな問題の影響で全館の防犯カメラは高性能な物を取り付けている。

「分かった。じゃあ今後の噂に関しては私が対処して行きます。何かあればいつでも言ってね」

また微笑むと彼女は先程までの無表情ではなく軽く微笑み返しをしてくれた。



『今日は何してた?』

「特には、」

色々考える事があって悩んでました!
とは言えず言葉を濁す。

『何も買ってないよね』

「もう!何も買ってないですよ」

『ははっ、そっか』

本気なのか冗談なのか分からない他愛もない話に二人で笑い合いそれに癒されてる自分がいる。

マレーシア=千世さん

気持ちがちょっと曇る。
そんなの私じゃない!

「出張の状況どうですか?」

今回の出張の目的はマレーシアの店舗拡大とシンガポールの大手企業との提携。
本社の外商の藤堂(とうどう)課長も同行してる。

「今日は現地視察したり、本社異動が決まった人と面談したり」

声が落ちてる。
本当に疲れてるのが分かる。
そんな時に自分の話なんて出来ない。

「早く逢いたい…」

あっ…
頭に描いた言葉が口から出てた。

「俺も逢いたい」

「珠子の上行ってると思うよ」優しい声で気持ちをプラスして話してくれる。

「そうだ、帰国したら…ん…またで良いか」

「何ですか?気になる」

「あぁ…」何かを発そうとして、

「マネージャー行きますよ」

女性の呼ぶ声がした。

「また連絡する。何かあればいつでも連絡して」

女性…何かは今です!!
めちゃくちゃ気になる状態で私は切れた携帯を見つめるしかなかった。



事件は人の数だけやってくる。
その頻度は様々。
でもこうも多いと…

「私のせいかとも思えてくる」

普段通り出勤後フロア内を歩いているとブチッと言う耳障りな音。

「藍沢チーフ!大至急僕の所へ!!」

けたたましい声と激しく切られた携帯に嫌な予感しかしない。
上層部の集まるフロアの一室までエレベーターと駆け足で急いで向かった。

ーーコンコン

ノックをすると「入りなさい」といつも以上に冷たい声に背筋をピンと伸ばした。

「失礼致します」

重い扉を開くと応接セットに部長とセミロングの少し小太りな女性が座っている。

見た感じは私と変わらない年齢に見える。
二人の前で一礼して座れと言う目線に渋々隣に座った。

「この方は末廣くんの奥様だ」

サーッと全身の血の気が引くのが分かる。
二日前、中原さんと話したばかり…
そして今日は奥さん登場!

「初めまして。わたくし藍沢と申します」

名刺を取り出し奥さんの目の前に静かに置いた。
冷ややかな目で私を一通り品定めしてテーブルの名刺を取り上げ「へえー」と言っただけ。

「今日奥様は彼女…中原くんの事で来られたんだが」

奥さんを目の前にした部長はいつもより焦りがみえる。
まだ中原さんに疑いを持ってるんだろう。

(…手間が省けた)

二日前に彼女と話した事など報告する間なんて無かったから何も知らない部長は相当焦ってる。

(それもそうか…)

もしもの話が本当なら場合を裁判沙汰になりかねない。
中原さんが絡んでると証明されたら蘇芳の評判とこの上司もただでは済まない。