あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

癒される環境と関係に精神的に甘やかされたのかも知れない!

きっとそうだ…だって私は…

「女帝」

頭に浮かんだ自分のあだ名を呼ぶ声に振り返った。

「久しぶりの相手に女帝って」

苦笑いで目の前の同期と挨拶をする。
渡辺 俊輔(わたなべしゅんすけ)も私の同期で確か…腕組みをして一瞬にして脳内を動かした。

「そう言えば渡辺って広報だよね?」

「まあそうだけど。どうした?」

怪訝そうな同期の腕を組んで引き摺るようにまだ混むには早い時間の社食に連行した。


◇◇


「俺に聞いて良いのか?高くつくぞ」

ヘラヘラと笑いながら「かつカレー」とご機嫌そうにスプーンを動かす。
昔からカレーが大好物な男。
最近は彼女が出来たと話を聞いてたから連絡は控えてた

「彼女も含めてお酒奢るわよ」

「彼女は別に良いけど同期会でもしようぜ」

ここ数年同期会をしてないからそれも良い。
やっぱり苦楽を共にした仲間は大事で信用出来る。

「白浪社、あぁー末廣さんか。俺あいつ嫌い」

いやアンタの好き嫌いは聞いてない!!
とは突っ込まず「まあまあ」と宥め緩めに事情を話す。

「火のないところに煙は立たないわな」

「渡辺が嫌いって仕事出来ない人とか?」

食事の気分じゃない私はコーヒーを飲みつつ渡辺の表情を確認する。
渡辺は人に対して好き嫌いはあまり無いタイプ。
と言うより人に興味が無い
そんな男がハッキリと嫌いと言ったのには理由があるんだろう。

「仕事はすげー出来るよ。うちの広告関係でも良い案を出してくるし。でもまあ女癖悪いな」

「ふーん」と相槌を打ちながら聞いてると少し事情が分かり出した。
一緒に歩いてただけなら良いんだけど釘は一応刺してた方が良いかも。

「あ、お前の上司に聞くともっと詳しく分かるんじゃないか?」

「会長は私の上司じゃないわよ」

カレーを黙々と食べる手を止め水をガッと飲み干した渡辺は、

「そんなの知ってる。今は旦那か」

思い出したようで口ごもってしまった。

「何聞いても私は気にしない」

「女帝なんで」と付け加えた。

「二年前かな…話して良いか?まあ時効か?本人こっち居ないしな…」

1人で乗り突っ込みを繰り返す渡辺を睨むと決心したように

「分かったって!一ノ瀬マネージャーの元カノも廣末さんと噂あったじゃん」

「えっ?」

「お前知らなかったの?企画部所属の円城(えんじょう)さんだよ。今は確かマレーシア勤務じゃないか?」

持ってたコーヒーカップ落としそうな程の衝撃的な事を私に告げた


◇◇


「逢えなくて良かった」

自宅に帰り誰も居ない部屋で3本目のプルタブを引っ張った。

「あんなに逢いたかったのに」

渡辺から聞いた話だと元企画部の円城さんと末廣さんはホテルに入る所を別の部署の人に見られたらしい。
相当な美人で有名だった円城 千世(えんじょう ちせ)さんは彼のアルバムの中で笑ってた人だ。

有名ホテル前で見られた事だったらしく「打ち合わせを最上階のラウンジでしてた」と話をして末廣さんは逃げられたらしい。
社員の円城さんは噂のグレーな部分を許されず表向きは自分からの異動としてマレーシア支部に行く事になった。

「そんな事があってたなんて知らなかった」

仕事仕事の私はそう言うスキャンダル系の話に興味は無かった。

「私、社内メールの異動の辞令で顔を見てたんだ」

今頃知ることになって渡辺には凄く笑われた。

「ち、せ?」

自分のサイズ変更された指輪に目が入った。

珠子のtでは無くて…

「千世のt…?」

それなら指輪が作られてた事や先に結婚の話を知ってたご両親の反応。

「何となく分かって来たかも」

そう思いながら開けたばかりのビールを飲みつつピスタチオの殻をパチンと割って口に放り込んだ。



翌日出勤早々に地下に急ぐ。
ベージュのタイトなワンピースにワインカラーのカーディガンを羽織り髪もカッチリと纏め今日も履きたくもないヒールを通路に打ち付けながら歩く。

「ペラペラ周りに話してなきゃ良いけど…」

地下の食材売り場のおば様達からまたも出た噂の真相を探りに行く為。
彼から昨晩連絡はあったけど「変わりない」と話しただけでこの件は伏せた。