あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

「君の指導不足じゃないのか?」

今日は驚くほど呼び出しが無かったのに…
わざとらしく反省してるアピールで静かに目を閉じた。

蓮池さんから聞いた噂が部長の耳に入ってるなんて…
色んな意味で“最悪”

噂は1階インフォメーションの中原 美颯(なかはらみはや)さんの話。

「うちに営業に来てる白浪社の末廣(すえひろ)くんと不倫じゃないかと噂が出てるらしいぞ」

(白浪社…あぁ広告代理店のか)

閉じた目を開き末廣さんを思い出す
30代後半のいかにも軽そうな男性を思い出した。

「どこからの情報でしょうか?本人に確認する前に情報源を知りたいんですけど」

「清掃係の田添(たぞえ)さんの情報だ。地下駐車場で2人が歩いてるのを見たらしい」

歩いてるだけで不倫と決めつけるのはどうかと思うけど念には念をで「確認してみます」と返事をし部屋を出た。

インフォメーションは言わば会社の顔。
美人や可愛い子は大抵そこに配属される。
秘書に並ぶ人気の配属先だ。

可愛いだけで簡単に配置されるわけでは無く入社するとまずは社外で接客の講習を受ける。
実践さながらのロールプレイングを何度もこなしスキルを身に着けやっとインフォメーションの顔になる。
老舗だからこそ百貨店の評判や名前に泥を塗る事は許されない。

「毎日よく何か起こるわね…」

ボヤいて総務の矢田 香澄(やだ かすみ)の元に急いだ。



「彼女か…次元違い過ぎてる子ね」

香澄も怪訝そうにパソコンの個人ファイルを閲覧する。
人事に関連してる同期で主任だからこそ香澄の権限でファイルを見れるけど普通は閲覧する事は出来ない。

「研修には私も立ち会ったけど可愛い子。25歳でK女子大のお嬢様でうちの会長の姪。まあ奥さん方の姪っ子みたいだけど」

彼女の学歴を見る限りお嬢様なのは分かる。
会長の姪っ子と言っても優秀な学歴で申し分ない。

「困ったな…」

「その噂が本当かよね。広報の知り合いにもそれとなく聞いてみるよ」

広報部なら末廣さんの情報も聞けるだろう。

「出来るだけ内密にお願いします」

話の内容が内容なだけに周りに知られるのはまずい。
その噂が本当かはまだ分からないけど倫理に反する事は小説や漫画の世界だけでお願いしたい。

「私の指導も何も」

そんなの個人の倫理観と節操の問題で仕事とは関係ない…
そんな事まで私の指導力を言われたらずっと社員を見張らないといけなくなるわけで。

(…疲れる)

口には出さずすれ違う社員に会釈をしながら内心では毒を吐いた。
つい浮かんだ最近の幸せな光景と首元のネックレスに触れて、

「逢いたいな…」

ついつい口に出てしまった。
まだ帰って来るまで日にちはある。
ずっと一緒にいたらこうも弱くなるの?
これで本当に記憶がもどったら…

「…痛っ」

また急に痛みが走った胃の辺りを押さえた。