あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

「牛丼大盛りに温泉卵を付けて。あっ、お味噌汁もお願いします」

グウ~と低音で響くお腹の虫数百匹を抑え込む。

「美人であんな食うのか?」

ボソボソ聞こえてますよー‼
美人は牛丼食べたらダメですか?

フランス人の祖母から受け継いだSSS級のスタイルに【太るスキル】は備わってない。
ちなみに私フランス語は話せません!

「私だって普通の人だっつーの」

創業400年と老舗の蘇芳百貨店。
国内いや世界的にも有名デパート。
老若男女問わず年間を通して多くのお客様が来店される。
東西南北分かれた四館あるうちの東館に配属され早8年何とか頑張って来た。

(疲れた…)

今日も部長からの呼び出し計7回!

毎日毎日しょうもない呼び出しにコンプライアンスなんてあるわけ無い。
そんな研修があった所で「昔は~」が口癖の部長に伝わるわけも無い。
部長は私が大好きなんだろうと素敵な勘違いでもないとやってられない!

牛丼は私のストレスを発散してくれる唯一無二の食べ物。
人の目気にしてて牛丼食べれるわけない‼

「俺も同じ物を」

心地良い低音と店内に似合わない身なりの彼は隣に立った。

「一ノ瀬マネージャーみたいな方も庶民っぽい物食べるんですか?」

ふふっと私は笑う。

「普通に食べますよ。女帝と噂の藍沢チーフもなんですね」

ははっと彼も笑う。

「あの二人モデルとか?」
「めちゃくちゃ素敵なカップルね~」

隣に立ってるだけでカップルになるのか…
私達は上司と部下の関係であって決してカップルでは無い。

そう一年前のこの時までは…


◇◇◇


「顔怖ッ。美人の真剣な顔ヤバいって…」

南館チーフの橘 奏(たちばな そう)は可愛らしい丸目の瞳を少し細めた。

「好きでこんな顔じゃない…」

私、藍沢 珠子(あいざわたまこ)も容姿端麗と周りにチヤホヤされながらも何とかチーフ3年目を迎えた。

「仕事人間の珠子にしてはネガティブ思考だね」

「そうかな?」

お互いチーフで有り年末年始の催事で忙しいこの時期お昼を一緒に取るのも久しぶり。

「原因らしいのが来たよ。珠子のダンナ」

凄く面白そうに後ろを指した。

(…あぁ今日も)

花の蜜に引き寄せられた蘇芳自慢の受付の綺麗な女性達に囲まれた彼の姿。

「結婚して何か変わった?」