「どうした?」
「いや、あの住所変更どうしようかと」
一枚板で作られた木製テーブルに冷凍ピザと彼は缶ビール。
軽く乾杯を済ませて今後の話に意識を振った。
炭酸水で喉を潤してこれからの事を話し出した。
「夫婦なのは皆んな知ってる事だし変更届出した方が良いと思う」
すぐに物件が見つかるとも限らない事考えると社会人としては当たり前。
「あのじゃあ…家賃とか水道光熱費は折半でお願いします!後は簡単な食事とか掃除とか」
不安を追い出すように自分に出来そうな事を思い付くまま言ってみる。
「…」
彼は一瞬宙を見上げて
「掃除はお願いしたいかな」
と笑うだけ。
「家賃とか気にする事ないよ。一緒に暮らすのに無理して欲しくないんだ」
「でも、それじゃ、私ばっかり得してる」
今度は私が宙を見上げるけど思い付かない。
「甘えれば良いんじゃないか?」
甘え…
私が一番苦手な分野で困ってしまう。
「…努力してみます」
「ははっ、努力か…珠子らしい答え」
「そんな笑わなくても」
「ごめん。珠子のペースで頑張れば良いよ。ただ変な誘いには乗らないように」
私の隣に座りポンっと頭に手を置いて「一緒に頑張ろ」と頭を彼の肩に自然に導かれた。
◇◇
「お疲れ様でーす」
会社支給のグレーのスーツに淡いピンクのスカーフを巻いた蓮池(はすいけ)さんがニコニコと走り寄ってくる。
今日も髪は盛られてキャバ嬢のみたいと言うか
そもそも彼女は元NO.1キャバ嬢。
稼いだ分を親の借金返済に充て完済させてうちにバイトで入ってきた頑張り屋さん。
昨年、彼女の見掛けとは違う真面目さに惹かれて私が推薦し先月社員登用した子。
「お疲れ様。お久しぶり、仕事はどう?社員教育終わった頃よね」
あのクソメガネ上司がいつもネチネチと嫌味のネタに使うのが彼女の話。
「皆さん優しいし楽しいです!本当にチーフのおかげです。ご恩に報いる為にも頑張ります」
姿形に似合わない日本語にまた微笑んだ。
見掛けで判断とか時代錯誤も良いとこ。
下手したら上層部より挨拶もお礼もきちんと言えるんじゃないだろうか…
彼女は接客とコミュニケーションがずば抜けて高い。
高級紳士服売り場には名だたる社長や著名人の来店も多く、うちに1回でも来店すると2回目以降は彼女を指名し高級スーツを3〜4着は購入する。
(奏の旦那もこの子推しだもんな)
彼女は2回目に会った時には既に好みを熟知していて1回目で話した内容も覚えているらしい。
程よい距離感の接客が好印象だと口々にお客様がおっしゃって帰る。
本当に人は見掛けで判断しては行けない。
彼女を見る度にいつも驚かされる。
「何か困った事があったらいつでも話してね」
彼女に手を振り3階から1階まで続く螺旋階段をゆっくり降りる。
近代的な内装に残る昔ながらの螺旋階段が好きでよく使っている。
「幸せそう」
お客様が楽しそうに買い物してる風景や歩いている光景をこの階段から見るのが好き。
入社してからも変わらず今も元気を貰ってる。
「はぁ〜。ゆっくりも出来ない」
ジャケットの内ポケットが震えて取り出した携帯を見ると上層部からの東館個別店舗の売上報告の催促メール。
「事務作業終わらせないと」
螺旋階段の手摺を握りしめ降りていた階段を駆け上がった。
「いや、あの住所変更どうしようかと」
一枚板で作られた木製テーブルに冷凍ピザと彼は缶ビール。
軽く乾杯を済ませて今後の話に意識を振った。
炭酸水で喉を潤してこれからの事を話し出した。
「夫婦なのは皆んな知ってる事だし変更届出した方が良いと思う」
すぐに物件が見つかるとも限らない事考えると社会人としては当たり前。
「あのじゃあ…家賃とか水道光熱費は折半でお願いします!後は簡単な食事とか掃除とか」
不安を追い出すように自分に出来そうな事を思い付くまま言ってみる。
「…」
彼は一瞬宙を見上げて
「掃除はお願いしたいかな」
と笑うだけ。
「家賃とか気にする事ないよ。一緒に暮らすのに無理して欲しくないんだ」
「でも、それじゃ、私ばっかり得してる」
今度は私が宙を見上げるけど思い付かない。
「甘えれば良いんじゃないか?」
甘え…
私が一番苦手な分野で困ってしまう。
「…努力してみます」
「ははっ、努力か…珠子らしい答え」
「そんな笑わなくても」
「ごめん。珠子のペースで頑張れば良いよ。ただ変な誘いには乗らないように」
私の隣に座りポンっと頭に手を置いて「一緒に頑張ろ」と頭を彼の肩に自然に導かれた。
◇◇
「お疲れ様でーす」
会社支給のグレーのスーツに淡いピンクのスカーフを巻いた蓮池(はすいけ)さんがニコニコと走り寄ってくる。
今日も髪は盛られてキャバ嬢のみたいと言うか
そもそも彼女は元NO.1キャバ嬢。
稼いだ分を親の借金返済に充て完済させてうちにバイトで入ってきた頑張り屋さん。
昨年、彼女の見掛けとは違う真面目さに惹かれて私が推薦し先月社員登用した子。
「お疲れ様。お久しぶり、仕事はどう?社員教育終わった頃よね」
あのクソメガネ上司がいつもネチネチと嫌味のネタに使うのが彼女の話。
「皆さん優しいし楽しいです!本当にチーフのおかげです。ご恩に報いる為にも頑張ります」
姿形に似合わない日本語にまた微笑んだ。
見掛けで判断とか時代錯誤も良いとこ。
下手したら上層部より挨拶もお礼もきちんと言えるんじゃないだろうか…
彼女は接客とコミュニケーションがずば抜けて高い。
高級紳士服売り場には名だたる社長や著名人の来店も多く、うちに1回でも来店すると2回目以降は彼女を指名し高級スーツを3〜4着は購入する。
(奏の旦那もこの子推しだもんな)
彼女は2回目に会った時には既に好みを熟知していて1回目で話した内容も覚えているらしい。
程よい距離感の接客が好印象だと口々にお客様がおっしゃって帰る。
本当に人は見掛けで判断しては行けない。
彼女を見る度にいつも驚かされる。
「何か困った事があったらいつでも話してね」
彼女に手を振り3階から1階まで続く螺旋階段をゆっくり降りる。
近代的な内装に残る昔ながらの螺旋階段が好きでよく使っている。
「幸せそう」
お客様が楽しそうに買い物してる風景や歩いている光景をこの階段から見るのが好き。
入社してからも変わらず今も元気を貰ってる。
「はぁ〜。ゆっくりも出来ない」
ジャケットの内ポケットが震えて取り出した携帯を見ると上層部からの東館個別店舗の売上報告の催促メール。
「事務作業終わらせないと」
螺旋階段の手摺を握りしめ降りていた階段を駆け上がった。



