あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~

「嫁…」

照れを隠すようにぶっきらぼうな態度で「取り敢えず入って」と先に歩き出した。

(喜んだらダメ。後がつらくなる!)

自分に言い聞かせて玄関でも十分すぎるくらいの広さに驚きながらも「お邪魔します」と濡れた足を貸して貰ったバスタオルで軽く拭き質感最高なスリッパに足を通した。

「これからどうする?」

廊下からリビングに通される途中でも会話は続き「えっと…何を?」と聞き返す。

そんな彼は「一緒に住むかって事」と呆れ顏。

「どうして住む…?そこまでご迷惑は」
「普通でしょ?夫婦なんだから」

それはそうなんだけど記憶が曖昧な彼と住んだとして記憶が戻った時に“何で一緒に”と思われても困る。

「夫婦ではあるんですけど…」

煮えきれるわけがない。
でもすぐ住める家もないわけで。

「俺は一緒が良い」

イケメンに真っ直ぐと見つめられてNOと言えますか?!
普通は言えないですよ?

「とは強気で言ってはみたけど」

リビングのドアを開ける前にさっきとは違う顔を見せる。

「どうしたんですか?不安そうですね」

「多分これ見て断れないんじゃないか?」

足の踏み場がないとはこの事だと思う。
リビングに続く廊下で少し予想は付いてた。
広いリビングに積み上げられたダンボールと脱ぎ散らかされた服。

「まぁ…酷いですね」

「奥さんが掃除してくれたら助かるんだよな…」

私は困っている人をほっておけるタイプじゃない。
それで騙される事もしばしば。

でも私には分かる。
本当は一人でも彼は生活出来ると思う。
でも彼はわざとらしい嘘で私が快諾しやすい方向へ促してる。

「マネージャーが良いなら…」
「じゃあ、決まり」

有無を言わせない。
考える隙を与えない。
記憶が戻ったり離婚になるとか今考えてても仕方ない。

「まずは身体を温めてきて。風邪ひく」

薄いブルーのスウェット上下を渡されてバスルームに押し込まれた。

「知らないとこあるんだな…」

見た目は潔癖で色々マメにこなしそうな性格だと思ってた。
間取りは3LDKらしいけど有効活用出来てないほど荷物が溢れてる。

「そう言えばお義母様言ってたかも」

「あの子見た目と違うわよ」と言いながら楽しそうに笑ってたのを思い出す。

それはお互い様で一緒に住むと言う事はこれから私も見せてない素を出す事になる。
すでにジャージ姿にスッピンはさらけ出してる。
少々?ズボラな私も見せる事になる。

「ふふっ。一年間夫婦だったのに」

自然と笑いがこみ上げて来た。



「お先に失礼しました」

「こっちにおいで」

ソファへ手招きして私の好きな炭酸水をくれる。
職場でよく飲んでるの銘柄を知ってる事に驚いて落としそうになった。

「すみません」

髪をタオルドライしながら恥ずかしさに半分タオルで顔を隠す。

「いつものパリっとした顔も良いけどその方が俺は好きかな」

好き!?
顏の話だよ!化粧の話!
勘違いはダメ!