だめっ、たまんない。




「蕾(つぼみ)?」


「え?」


振り返った先にいたのは先ほどまつのに蛹と呼ばれていた人。


そして、え?と言ったのもその人だ。

目を見開いて母を見ている。


母は私になんか見向きもせずにただ彼を見ている。




「つぼ、み、いや、大河(たいが)?」


無言で母を見つめる。

「あ、、。」

怯えるように周りを見渡したあと、


「結奈。おかえり。」


[ただいま。お母さん。]


と書いた紙をみせて微笑む母の笑顔を見ても、

何も思えなかった。


蛹は、顔をしかめていた。

今にも泣きそうで。



「東堂さん。端野(はしの)です。

お久しぶりですね。」


会ったことがあるみたいだ。

たいがってつぼみって誰だろう。



そんなことを考えていると母の目から一筋涙が溢れた。

あの強い父に怯まずにいた母が泣いてるのを見たのは

初めてだった。



「蛹、、。藍くん。おかえり。」


悲しい笑顔だった。

胸がギュッと苦しくなる。


「ただいま。お母さん。」






え?お母さん?

でも、私に兄はいないはず。


答えを求めるように彼、蛹の方を向いた。




すると、彼にそっくりなもう1人の男の人がいた。



そして、その横にはびっくりするほど

笑顔の似合う女性。




蛹は彼を無表情で見つめていた。

そして、その彼もまた無表情で。



「蛹。何しに来た。」


「、、。」


無言の圧とはこれのこと。


「言いたくないのか。」

「いや。」

どちらも無表情で、怖いと思った。




私は右手で蛹の袖を引いた。