まつのに許可をとって行った場所は実家。
実家といっても私はただそこで過ごした、
いやそこで生きていただけ。
毎日ご飯を食べられたらまだいいほう。
うちはとにかく貧乏で。
お父さんはヤクザ、お母さんは水商売してて。
家になんていなくて、帰ってきてもずっと寝てて。
でも、1年前からそれが変わり始めたんだよね。
1年前、父は出世したらしかった。
幹部?に上がったとか、上がってないとか。
うちには金がなかったから、
満足に自分のしたいことができなくて、
きっとお父さんも苦しかったんだと思う。
そして、父は、金を稼ぐために私を利用した。
格闘技なんてしたこともない私に練習に付き合えとか。
母の店に押し込まれ、未成年にも関わらず、酒を飲まされたり。
学校以外は全時間バイトで、過労で倒れかけたこともあった。
父はそれから、納得がいかないと私や母を殴るようになった。
腕を天井の柱にくくりつけて、パンチングミット扱い。
そして、私たちが苦しむのを楽しむ。
飛んだ趣味だったけど、私には反論なんてできなかった。
私は弱くて、きっと反論なんてしたら死んでしまう。
父はそう感じさせるような強い人だった。
絶対に逆らえないんだと。
そこから私は声を出すことをやめた。
話すと殴られ、私の意見なんてなかった。
笑顔が消えて、いつも無表情になった。
バイトばかりで、学校では殆ど寝てて、それに風呂もあんまり入ってなかったから汚くて。
髪も爪も、綺麗にしたい年頃のはずなのに。
私は、ボロボロだったから友達なんていなかった。
でも、私は意見がないわけではなかった。
やっぱり押し殺せない自我が、度々顔を出す。
とても厄介だ。
私は行動に出た。
それが全ての、はじまり。
父の側近。
中澤という男。(本名は中澤晴日〈なかざわはるひ〉)
私はその中澤に近づいた。
幸い父も母も顔がよくて、私もそれなりに引き継いでいた。
そいつは簡単におちた。
私は格闘技の練習をしたかった。
それを彼にお願いした。
そして、その間に仲良くなって。
体の関係を持つようになった。
でも、私は彼、中澤が好きだと感じることがなかった。
付き合ってもいなかった。
ある日、ふと、今月はきてないなと思った。
その次の月も、また次の月も、それまた次の月も。
最初の方はただとんだだけかなぁとか、疲れてるからかなと思ってた。
けどさすがにおかしいと感じて、産婦人科に行ったの。
もしかしたらって。
3ヶ月ですって。
あー、やっちゃったーって。
生活もままならない私には堕ろす選択肢も、
産む選択肢もなかったんだ。
中澤には、伝えたよ。
結婚してほしいって、迫られた。
でも、できないって断ったら、殴られて。
でも私、中澤に格闘技習ってたから、強くなってて、
お父さんの子だから。
結構強くて。初めてお父さんの子でも良かったって。
ボコボコにされるどころか、
顔の形がなくなるくらいまで中澤を殴り潰して
どこかの暴走族の管理地に足を踏み入れて、
まあもう死んでもいいやマインドで入ったこの裏路地で出会ったんだ。
まつのに。



