泣きじゃくって抱きしめあってる私たちを見て
松野のおじさんは、眉を寄せた。
これは、怒ってる?
その顔を察したらしいこまちゃんが
私たちを引き離し、
床に座らせた。
トントンと私の背中を叩いて、
「一応縁談だから、挨拶しよ?結婚の笑笑」
と冗談なのか微笑んで
私の横に正座。
そっと頭を下ろして
「本日は、突然であったにも関わらず
お時間いただきありがとうございます。
今回の縁談の相手は私の母でした。
伝えなくてすみませんでした。
しかしながら、どうぞ、よろしくおねがいします。」
松野のおじさんが立ち上がったのが見えた。
土下座状態の私たちの前に立つ。
「頭を上げなさい」と言われてあげた先。
痛いくらいの笑顔が待っていた。
「仁、縁談、受けるか?」
「誠に勝手だとは充分承知しておりますが。
そうさせてもらえると光栄です。」
「端野さん。君の名前は?」
あっと、こまちゃんが口を開く。
その前に食い込んで
「東堂結奈改め、端野結奈です。
こちらは私の娘、端野狛です。
不束者ですが、どうぞ、よろしくお願いします。」
「私は、松野宵一(まつのよいち)。
会長です。
こっちは息子の松野仁。
結奈さん、狛さん。
こちらこそよろしくな。」
「ところで、結奈さんと仁はどういう関係なんだ。」
真剣な顔をし出した宵一さん。
まつのは微笑んで、
「私は15年ほど前、
路肩で女の子を拾いました。
といっても、当時彼女は高校生くらい。
その彼女は突然いなくなりました。
どうしてもまた会いたくてずっと探していました。
その彼女というのは結奈です。
結奈とはこの15年間会ったことも
すれ違ったことすらなかったと思います。
しかし、この前喧嘩をしている間を通る狛さんを
見ました。
そのとき面識はなかったですが、
喧嘩をしている奴らの間を
堂々と通る狛さんに目をつけました。
狛さんは喧嘩をしていた男達が殴りかかってきたとき
壁に投げつけました。
とんでもなくて、声をかけました。
狛さんに電話がかかってきて、変わると結奈でした。
そして、縁談がきて、今に至ります。」
困ったような顔をした宵一さんは私を見て
「今の話は本当か?」
「本当です。
突然いなくなってしまったこと、
心より申し訳なく思っています。」
するとこまちゃんが口を開く。
「まさか投げてるところを見られるとは
思ってませんでした。
今後は人は投げないよう善処します。
すいませんでした。」
「はっはっはー笑笑」
その一言で空気が砕けた。
その日は夜まで楽しく食事会を楽しんだ。



