「ゆなちゃん!はやく起きて!!
行くよー!!」
「ほぇ?どこに?」
寝ぼけていて、ほぇ?なんて恥ずかしい。
こまちゃんのおかげで咄嗟に声は出るようになった。
でも、それはこまちゃんの前だけ。
いまだに藍にいや大河さんとは言葉で対話できなくて
困らせている。
でも、そのことも理解してくれている。
そんな人たちに恵まれて過ごしてきた。
とんでもなく幸せで、幸せ者のはずなのに
ーまつのがいればな。って。
欲張りだよね。
気がついたら、着たこともない着物に身を通し
綺麗に髪がまとめられ、普段あまりガッツリしない
メイクも綺麗に施されていた。
そして、いつも通りのこまちゃん。
「可愛いー!!ゆなちゃんさいこー!!」
こまちゃんのほうが可愛いよ。
いつのまにこんなに綺麗になったのかなぁ。
中澤は顔はそこそこいけてたけど、
やっぱり私に似てほしいなと思っていた。
しかし、こまちゃんとくればどっちにも似てない。
私は、無駄に美形な母と父だったけど
どちらかというと母の顔に似ていて、
気が強そうでくっきりした顔だけどかなり童顔。
中澤は、どっちかというと可愛い系。
でもこまちゃんは、どこから現れた遺伝子なのか
韓国っぽい綺麗で、大人っぽい顔。
ほんとに可愛くて、性格も可愛くて、大好きな娘だ。
そんな娘に連れられてきたのは、
15年ぶりの松野家。
連れてこられた瞬間にわかった。
まさかこんな形で来るとは。
私が迎えに行きたかったのに。
[ねぇ、こまちゃん?ここで何するの?]
端野さんたちがいるので今、私は筆談だ。
しかし、その返事はなく。
どこかの部屋の前についたとき。
「ゆなちゃん!
これから縁談だからね!
楽しんで!!」
「はぁ!?」
珍しく、悲鳴をあげた。
そもそも誰と誰の?!
てかなんで今言うかな。
そうして、こまちゃんを少し睨むと、
こまちゃんはスパンと扉を開けて、
私にはまだ見えない部屋の中の人に言った。
「迎えにきましたって。」
「え?」
まただ。
つい最近のような。
もう何十年も前のような。
1秒も忘れたことなんてない声。
勝手に涙が目に溜まる。
ニコッと笑ったこまちゃんが見た先は私。
「ね?ゆなちゃん。」
着慣れない着物をきたまま、
私は一歩一歩歩みを進める。
そこにいたのは、何も変わらない金髪スーツの彼。
目が落ちるんじゃないかと思うくらい、
驚いていたまつの。
目が合えば、痛いような笑み。
「結奈。待ってた、待ってたよ。ずっと。」
「うん。迎えに、きた。ごめんね。
こんなに、遅くなって。」
いつのまにかこまちゃんは部屋の端にいて、
まつのは目の前にいて。
まるでそれが当たり前かのように。
まつのに飛びついた。
まつのは痛いくらいに抱きしめ返してくれた。
気づけば、涙でぐちゃぐちゃだった。



