だめっ、たまんない。




「こんにちは。松野さん。中澤と申します。


ここに東堂結奈さんはいらっしゃいますか?」




結奈が出ていって数日後、


もう帰ってこないと思う結奈を


探す男が訪問してきた。



「いませんね。残念ながら。」



わかりやすく、落胆したガタイのよい男は


昨日の父親ではなかった。



「あの後が気になって、探していたんですよ。


知らないですか?何も。」



意味がわからない。



「あの後とは、どの後でしょう。


しかし、東堂結奈はいません。


何も知らないですし、わからなかったですから。」




「妊娠した後だよ。」



真顔の彼は、俺の知らない結奈を知っている。



「妊娠か?」



「あぁ。」



「誰が、そんなことを?」


俺は怒りに満ち溢れていた。

今でも殴りかかりそうだった。



聞いたこともない話を知らない男に話されている。



「君にとって、そんなに彼女は大切だったのか?

返事がまだだったな。

あぁ、妊娠させたんだよ。俺が。」




「俺にとって、結奈は、、。」



ニコッと笑った。




結奈を妊娠させたクソ野郎に。




言われて俺は、思ったんだよ。



俺にとって、結奈が、






ー何よりも大事だったんだって。




いなくなってから、何回結奈と呼んだだろうか。


返事なんて、あるわけないのに。



結奈、結奈結奈って。




今までいなかったはずなのに。



少ししか一緒に過ごしていないのに。





いつのまにか、


結奈に出会わない人生が見えなくなってたんだ。




もう一回。


もう一度。



どこかで出会えますように。