乱闘が始まったとき、
あまり巻き込まれたくなかった私は、
蕾さんの婚約者を連れて
部屋の角に走った。
婚約者さんは腰が抜けていて、ただ唖然とした顔で
この場を眺めていた。
私はその婚約者さんを守るように、
前に立つ。
こんな私でも、一応格闘技経験がある。
中澤くらいなら倒せると知っている。
でも、格が違った、。
自分の約2倍はあるがタイのいい男。
見上げている
胸ぐらを掴まれた。
煽るように
「どっちからやろっかな」とか言ってるし
やってみる価値はある。
そいつがパンチを繰り出す前に
私はそいつを殴り倒した。
そいつは驚いたのか、私を見つめている。
もう1発殴って近くの壁に叩きつけると、
流石に動かなくなった。
幸い他に襲ってくる人はいなかった。
だから、婚約者さんを角に置いて、
母を殴り、後ろを向くまつのに
襲い掛かろうとしていた父にそっと近づいた。
まつのが1発殴られて、頭をさすっている時
私は父をも殴った。
瞬きする間に2発。横腹に叩き込んだ。
父は目の前に倒れていた。
あんなに殴られてばかりで、
傷つけられてばかりだった。
でも、今、私の目の前に倒れているのは父だ。
後ろに倒れているのは顔面血みどろの母。
前で目を見開いているまつの。
ー状況が変わった。
私はもう。
父の道具なんかじゃない。
ドテン。
安心したら力が抜けて、転けてしまった。
「ははは笑笑結奈、強いんじゃん」
そう笑ったのはもちろんまつの。
「おいで?結奈」
手を広げて待ってくれる。
その時、とんでもない腹痛が起こった。
「うぅー。」
意識が飛びそう。
経験したことのない痛み。
そういや私って妊婦なんだったっけ?
何週目とかよくわかんないし、
あんまり病院行ってなかったから、
行けなかったから。
あー、やっちゃったって。
心配そうに見つめるまつのを見て、
ごめんねって思ったよ。ちゃんと。
言わなくて、話さなくて、言葉で伝えなくて。
自分のこと、何も話さなくてごめん。
隠してて、、ごめんなさい。
ほんとにごめんなさいと思ったとき、
背中に温かい温もりがふれる中、意識を手放した。



