だめっ、たまんない。




俺が初めて愛した人だった。



愛しい彼女を母に紹介しにきただけ。


それだけのはずだった。



それなのに。


「ギャー!!」


争いに巻き込まれた俺は、倒しに倒しまくった。



でも、格闘技も空手も

ましてや人を殴ったことなんてない彼女に


自分を守る力なんてあるはずもなかった。




響き渡る彼女の悲鳴の中、

俺は信じられないものを見た。



何度も過呼吸になっていた“ゆな”と呼ばれた女が、

俺の妹らしき女が、



自分の前に立ちはだかる自分の2倍もある男を





殴り倒した。



俺は唖然とするしかなかった。


彼女が救われたのはいいことだ。




が、やはりおかしい。





それは蛹も感じたらしかった。


目を見開いて、俺を見ていた。


俺も頷いた。



知らないらしかった。


蛹と、松野さんの連れっぽかったが


驚いていると言うことはさほど親しくなかったのか。



いやでも、信じがたい。


体格は俺の彼女より少し高い背。




と言っても、俺の彼女は、153と小柄なので


ゆなはあっても155らへんだろうか。



ムキムキでもなんでもない、


細くて日焼けの知らなそうな真っ白な腕や足からは


想像もできない。



しかも真顔なんだ。




彼女は、



母に会えても喜ばなかった。


挑発されても怒らなかった。


母が父に殴られて哀しむこともなかった。


松野さんに懐いていたが、

松野さんがきても楽しそうに、

嬉しそうにしなかった。



喜怒哀楽すべてが欠けている。



それに聞こえていると思うが、話さない。



ただずっと話さずに、少し顔をしかめて立っていた。



松野さんに義父が殴りかかった時、


俺も蛹も動けない中、


彼女は父をも殴った。



そばには顔面血みどろで気絶する母と


怯える俺の婚約者。


目が落ちそうなほど目を見開く、蛹と、松野さん。



俺は立ち上がった。