「東堂結奈。」
ギュッと握りしめた右手。
「怯えるな、。」と蛹が言う。
母が後ろから背中をさする。
でも、その時、思い出したのは父。
後ろから抱きしめ、
いやホールドされたことを思い出した。
首を絞められて、窒息寸前になった。
後ろから暴力を振るわれたことは数えきれない。
私は、パニックになった。
呼吸の仕方がわからない。
「うぅ、、あっ、、。」
過呼吸になった、私は地面に膝をつく。
先程、蛹と話していた男性が私を受け止め、
その隣にいた女の人が肩をさする。
母も、蛹も心配していた。
すると、声が聞こえた。
「蛹。」と。
つい先程まで聞いていたはずなのに。
もう、懐かしい。
でも、動くことのできない私は
地面に這いつくばったまま。
するとまつのが走っている音が聞こえた。
すると、それは私の方に来た。
「結奈!大丈夫か!」
「うぅー、ひゅっ。」
あ、まつの。
来てくれた。よかった。
まつのの背中に手を回した。
まつのは痛いぐらい抱きしめて、
「落ち着け、ゆっくり、深呼吸しな。」
すぅー、はぁー、すぅー、はぁー
まつのと目を合わしたときには、
もう過呼吸は治っていた。
まつのが見上げた先にいたのは蛹ではない。
蕾と呼ばれた彼。
「ご無沙汰しております。松野様。」
先程、蛹と話していた人とはかけ離れた、
礼儀正しい人になった。
「どうして蕾もいるんだ。
父はそれを許したのか?」
黙り込んだ蕾に、
私を片手に抱いたままのまつのは無言で圧をかけている。
蕾がペコリと頭を下げたとき。
蛹が口を開いた。
「母なんだ。
会いたかったんだと思う。
俺には母がいなかったから。そう思えないから。」
でも、無表情だった。
感情、捨てたんだなって。
苦しくなって、また、まつのに抱きつく。
まつのは優しく笑って、
「外部となんの断りもなく関わることは許さない。」
と蕾に言った。
「すみません。
伝えたくて、俺、婚約しましたって。」
「、勝手に婚約など何を考えてる。
仕事を失いたいのか?
今まで会ってなかった彼女を人生に加える必要が
あるのか?」
威圧感が怖い。
震えた手をまつのが握る。
「俺は彼女を愛してしまった。
それは変えられない事実です。」



