ーはぁっ、、。はぅ、。
こんなことになるはずじゃなかったのに。
こんなこと、ならなかったはずなのに、。
路地裏に倒れ込んだ。
「おい。大丈夫か。」
びっくりするほど大きな金髪の男の人が、私の前に立つ。
「こんなことになっちゃったよ。」
私がふふっと笑いながら言うと、彼と目が合う。
綺麗だな。なんて。
それが最後で記憶がない。
目が覚めたのは知らない真っ白な部屋。
「おい、大丈夫か。」
あの人だ。
助けてくれたのだろうか。
私は何かを言うこともなく、虚な目で彼を見る。
「名前は、?」
サッと近くにあった私のカバンから紙とペンを出す。
“東堂結奈(とうどうゆな)”
昔からのコンプレックスの丸い癖字を綴る。
彼は何を考えてるかわからない瞳をしていた。
無表情で、わかりにくい。
「俺、松野仁(まつのじん)」
ぺこぺこと頭を下げる私を見て、
ふはと吹いたのは紛れもない彼だった。
「かわいーな、結奈」
え?
え?どうい、う、、?
でも私も、変わらぬ表情。
私はそう生きてきたから。
変えない顔。
だから、こういうときの対処法を知らなかった。
とりあえず、微笑んだはずだった。
「ふはっ笑笑、結奈、あきねーな。
下手くそすぎんだろ。笑顔。
もっと自然にできないのかよ。」
言ってる内容とは裏に優しい音色の声。
でも、だって、笑ったことなんて、なかったんだから。
仕方ないじゃんって。
言わないけど、。
ただ彼の目を、彼の瞳を見つめていた。
「なあ、結奈」
そういえば、ここはどこだろう。
「なんさいだ。」
“16です。”
結奈結奈、結奈って。
「なあ、結奈。
俺のとここいよ。」
「は、」
思わず声が出てしまった。
ずっと声が出ないんじゃない。
出せない訳でも、出したくない訳でもない。
なぜか、ずっとそのようにしていたからか、声を発することがない。
「声、出るんじゃん。」
困った顔で彼を見つめると、ふふっと笑顔を見せた。
「結奈さ、なんであんなとこにいたの?」
“内緒です。言いません。”
紙で顔を隠していたけど、ペリッと剥がされて。
ふふっと彼を見つめると困ったような笑顔を見せた。
「内緒かぁ。」
コクコクと頷いている私にまた吹き出す彼。
「結奈、一緒に住まないか?」
どうせ帰る場所なんてないんだから。
コクリ。
そっと頷いたら彼は嬉しそうに電話をかけた。
色々準備するように頼んでくれたみたい。
誰でもすぐに頷くわけじゃない。
ちょっと性格悪いけど、自分より下のやつには絶対従わない。
信用しないけど信用されなければいけない。
そう私は生きてきた。
でも、頷いてしまった。そう簡単に人を、まつのさんを信じてしまった。
もう、私は彼の虜だ。
きっと離れられない。



