良く見るとそのひとは、真珠のネックレスをしていた。粒が大きめの淡色パールだ。
ひとつひとつの円さが黒髪にも黒衣にも映えて、生き物のようにつやつやしている。真珠が、生き物・貝がらの中で育まれることを思いだしたかのように。
まるで浮かび上がるような、いのちの円周。
そのひとは、
その円周を、ためらいもなく引きちぎった -
車のビームライトが散る真珠をとらえ、一瞬だけの映画のようにそれは宙に散り、アスファルトの上をはずんだ。
そのひとが、ゆっくりと僕を見た。まだ、真珠は跳ねていた。動きがあるのは今はもういのちを持たないそれだけだった。
そして、
黒い蝶のようなそのひとのまばたきだけだった。
黒衣に真珠のネックレスをまとう意味を知らないわけではなかった。
だが、僕はそのとき、そのひとに見とれていて何も気づかなかった。
舞い散る雪、月の光の雫、跳ねる真珠、そして、
どこまでも深く深く沈んでいけそうな美しいその真っ黒な瞳 -



