「おはよう一馬くん。毎日本当にありがとうね。蛍~、一馬くんよー今日も迎えに来てくれたわよ。早くしなさい」

「待って〜まだ髪の毛が〜」
幼馴染の一馬はこうして毎日迎えに来てくれる。その理由は他の人は知らない。みんなには知られたくないと思う。

「ごめんお待たせ」
「いや……大丈夫。じゃあ行こうか。はい」
一馬に左手を差し出されて私は右手でそっと握った。

「蛍、一馬くん気をつけてね」
「うん。いってきまーす」
「いってきます。おばさん」
今日も私の右隣に一馬が居てくれる。私は幸せな気持ちと複雑な思いを抱えながら一緒に電車に乗って学校に向かった。

満員電車の中ではいつも私が潰れないようにと守るように支えてくれる。周りから見れば私たちは仲のいい高校生のカップルに見えているだろう。でも本当の私たちは違う……みんなには言えない大きな秘密を抱えていた。

母の再婚で私が小学校3年生の頃にこの地に引っ越してきてからの幼なじみだ。人見知りでなかなか友達の輪に入れなかった私に接してくれたのが一馬だった。

あれは3年前の私たちが中学2年生に上がったばかりの春のころだった。
一馬はサッカー部のみんなとシュートの練習をしていたとき一馬を呼んだんだけど全然気がついてくれなくて思わず近づいてしまった。その時にちょうど一馬が蹴ったボールが運悪く私の右目を直撃してしまった。そのときの事故が原因で私の右目は視力低下と一部分の視野障害を起こしてしまって片目では見づらくなってしまった。でもそれは近くにいってしまった自分のせいだと思ったけれど一馬は違かった。私の目をけがさせた責任を感じてそれから毎日こうして手をつないで私の目の代わりに右側を歩いて学校に行ってくれるようになった。

私は出会ったころから一馬が好きだった。一馬はそうは思ってないだろうけど、私はこうして一馬と一緒に学校に行けることが嬉しかった。怪我の功名とはこういうことを言うんじゃないかってのんきに思っていたけれど……でも一馬はそうじゃなかったのかもしれない。私の親に何度も何度も怪我をさせてしまったことを謝っている姿を見たことがある。それからの一馬は私が登下校の時にけがをしないようにと部活をやめてまで一緒に行ってくれるようになった。周りの子たちは付き合っていると勘違いをしていたから本当の理由を説明しようとしていた私に一馬は「言わせておけ」とそのままの状態にしていた。そしてそれはもう3年も続いている。でも本当はそんなことさせちゃだめだと思っていた。

高校も本当は少し離れたサッカーの強豪校にスポーツ推薦で行くはずたっだのに部活をやめてしまったせいで行けなくなった。一馬はいずれ歯科医になるからあそこは行かなくてもいいんだと言ってたけど、でも本当はサッカーをもっとやりたかったんじゃないかと思っていた。一馬が選んだ学校は2つ先にある駅近の進学校だった。一緒の高校に行けるように頑張ろうと勉強が苦手な私のために教えてくれた。それに甘えて私は……そのまま一馬に言われるがまま受験して同じ高校に合格した結局、高校生になってもこうして毎日迎えに来て一緒に学校に行ってくれる。一馬の私に対する罪滅ぼしなのかもしれない……

でもあれは私のせいなのに……私があのとき近くを通らなければよかったのに……それなのにこんな私に責任と義務感を感じて一緒にいてくれなくてもいいのに……と心が苦しくなりそうになりながらも私は今日も、一馬の隣で彼女のフリをしている。でもそれはあと少しなんだと自覚したのはしばらく経った時だった。それなのに、そのことを忘れてしまうようなことがあるなんてその時の私は何も知らなかった。