45歳。週末は逆シンデレラと。

目覚めたら、
きみは私のとなりに寝転んで、スマートフォンを見ていた。暗闇の中で。

「あ、起きた?」
「うん」
「よく寝てたねー」
「そう?」
きみはすぐにスマートフォンを置いて、私をぎゅうっと抱きしめてくれる。ふふ、
いつもはひとりの布団が、今夜はふたりの布団になって、本当にあったかいや。
(離れがたい)

「何見てたの?」
「昨日買った本。手芸がテーマの小説だよ」
「面白い?」
「序盤だからまだわかんないなー」
きみはゆったりと話しながら、私の髪や頬を優しく撫でてくれる。
「すべすべだね」
「ありがと。
あ、きみ、私のヘアパック使っただろ!!」
「あ、ごめん。ちゃんと許可取ろうと思ってたんだった。
使いました」
素直に謝るきみが子犬みたいで可愛くて、私は両手できみの髪をぐしゃぐしゃと撫でる。良い子良い子ー。

「髪すべすべやんか」
「あのヘアパック良いね。明日買おうかな」
「うちで使えば良いじゃん」
「えへ」
私の言葉に、きみが照れくさそうに笑う。照れをかくすように、私のおでこに自分のおでこをつけ、ぐりぐりと押してくる。
おい、やめろ。可愛いからやめろ。飼うぞ。ペットとして飼うぞ。

初めて会った時「幸せになりたいんです」と、私の目を真っすぐ見てきみは言った。
具体的にどう幸せになりたいのか言え、と、やり直しをさせた。
- 週末はパートナーとのんびり、読書したり手芸したり、動画観たり、散歩したり買い物したりしたい。
価値観が私と合った。「のんびり」と言う言葉も気に入った。「手芸」と言う言葉が気になった。
- 何作るんですか?
- えっと、コースターとか、カゴとか、ランチョンマットとか。
編み物もしますよ。
「おもしれぇな」って思った。だから、きみと付き合うことにした。
案の定、今まできみといて、退屈したことが一度もない。まるで、オーダーメイドの服のように、私にしっくりとなじむきみ。
(遅咲きの恋が花開く)

「今何時?」
「2時過ぎ」
「寝ようよ」
「うん」

私をぎゅうと抱きしめて、髪や肩や背中をよしよししてくれるきみ。嬉しい。可愛い。食ってやりたい。
「あ、白髪」
「見つけるな」
「んー、きみの髪、すべすべできもちー。ずっとさわってたい」
「私も、ずっときみをさわってたいよ。だって可愛いんだもん」

「可愛いの?」
「うん」
「好き?」
(ドキ)
「そこ、ときめくべき?」
「お願いします」
「うわぁ、ドキドキしたー!!」
「棒読み!!」

きみを幸せにするよ。
きみが私に飽きるまで。
「きみも可愛いよ。大好き」
「えへ」

きみを幸せにして、私自身も幸せにするよ。
何かがふたりを分かつまで。


2025.03.10
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