軽い溜め息と共に、質問の答えが返ってきた。
やはりこの執事見習いは何でもよく知っている。

「『悪役令嬢』とは、巷で流行している恋愛小説に出てくる女性のことですね。ヒロインの恋敵で、大抵は身分とプライドが高く、自分の婚約者に近付くヒロインを排除しようと行き過ぎた嫌がらせを行いがちです」
「……それって悪いのは悪役令嬢じゃなくて、婚約者持ちの男性にちょっかいを出すヒロインのほうじゃない？」
「ごもっとも。でもヒロインこそが運命の相手だと信じている婚約者は、本来の婚約者であるはずの悪役令嬢を疎ましく思い、虐めの証拠を突き付けて罪を裁こうとするのです。人目の多い場所をわざと選び、エグイ罪を着せることが一般的ですね」
「ふーん、悪趣味ね。でもそれが『断罪』ってやつなのね。じゃあ『断罪返し』は？」

とりあえず『断罪』とは何かを理解したマリアンヌは、次の質問を繰り出した。
彼女に課せられたミッションは、『華麗な断罪返し』なのだ。

「『断罪返し』は簡単に言えば、婚約者側へやり返すことです。まずは自分のアリバイを証明したり、虐めの証拠品に証拠能力が無いことを訴えて無実を勝ち取ります。続いて冤罪を着せようとしたことを公にし、そちらを問題視することで、逆に向こうの立場を貶めるわけです」
「なるほどね。女性向けの小説なのに、アレンってばやけに詳しいのね」
「それほどでもありませんが」